【検証:】過去ログSpecial

【検証:近未来交通地図】Special203-6
川崎縦貫高速鉄道の可能性を探る

 本投稿は、川崎縦貫高速鉄道の賛否について、【検証:】掲示板でもお馴染みの、和寒様 と串間様の対論を中心に、読みやすく構成させて頂いたものです(なお一部文面を編集しております)。

朝ラッシュ・南武線実乗記と川崎縦貫鉄道の可能性
なぜ川崎縦貫が必要か

川崎市の地下鉄に関するアンケート結果
世紀の愚策となるであろう結末

需要予測についての疑問
市民部会の川縦批判手法を批判する
横浜市との連携ができないか
川崎縦貫高速鉄道線のルートを検証する

下記内容は予告なしに変更することがありますので、予め御了承下さい。
当サイトの全文、または一部の無断転載および再配布を禁じます。



【川縦論】市民部会の川縦批判手法を批判する
 投稿者---和寒氏(2003/06/26 17:25:31)
 
http://www.geocities.jp/history_of_rail/
【川縦論】市民部会の川縦批判手法を批判する
└通過旅客がここまで多いとは
 └「森」はどこにあるのか
  └
南武線vs横浜線vs川縦線での批判は間違いか
   └川縦のロケーションにおける需要予測に対する認識
    └川崎縦貫の特性を理解すること
     └急行運転の疑問への答え

 串間様から御呈示のあった市民部会の提言書はこちらにあります。

市民部会提言書 http://www.city.kawasaki.jp/82/82tetudo/home/pdf/simin-1.pdf

 斜め読み段階では気づかなかった事柄がいくつかありましたので、ここに示したいと思います。

■悪印象を誘導する記述

 P46に下記内容が記述されている表があります。

輸送密度  試算a
 市想定b
 39,561.8
 61,871.9
 a/b 63.9%

 試算にも批判を加える余地はありますが(雑感3にて承前)、それを措くとしても、この見せ方そのものに作為性を指摘しなければならないのです。
 特に都市鉄道の輸送密度を知る方は、「輸送密度は市の予想でも高々6万人か。これでは鉄道としての事業成立は困難だな」と受け止めるでしょう。少なくとも私はそのような第一印象を持ちました。
 ところが、輸送密度の単位を見て仰天です。(下り・日)なのでした。つまり、本来の輸送密度(人/km日)の半分でしかない。実際の輸送密度は、川崎市の想定では約12万人強、市民部会では約8万人弱、ということになります。
 極めて厳しく見積もっても8万人/km日程度の需要が見込めるのであれば、鉄道事業として決して無茶なプロジェクトではないです。それを半分に見せるというのは、しかもそれを読み手の迂闊さに帰する狡さは、高度な情報操作テクニックと評さざるをえません。同URLの末文にあるような、「身の丈に合った」見せ方をしない点は、強く批判されてもいいでしょう。

■木を見て森を見ない需要予測批判

 雑感3に記した「重箱の隅をつつく」面もさることながら、さらに重大な事柄があります。
 P37にあるOD表、これはたいへん重要な情報です。OD表を公式Webに掲載しない市の姿勢にも問題はありますが、その内容に対する批判はさらに問題含みといわなければなりません。
 このODから、主要な需要を読みとってみましょう。

小田急本厚木方面発新百合ヶ丘乗換利用客数 20,882人

のうち

  東急渋谷方面発宮前平乗換利用者数 23,057人

のうち

  川崎行 3,161人       犬蔵行 3,417人  
  川崎乗換京急品川方面行 2,756人       野川行 3,027人  
  元住吉乗換東急小杉方面行 2,637人       蔵敷行 2,178人  
  宮前平乗換東急渋谷方面行 1,554人       久末行 2,103人  
            新百合ヶ丘直通小田急多摩線方面行 1,978人  
小田急多摩線発新百合ヶ丘直通利用客数 13,087人 のうち     長沢行 1,942人  
  宮前平乗換東急渋谷方面行 1,998人       新百合ヶ丘乗換小田急厚木方面行 1,560人  
  宮前平乗換東急中央林間方面行 1,320人            
  元住吉乗換東急小杉方面行 1,300人     東急小杉方面発元住吉乗換利用者数 21,605人 のうち
  新川崎乗換横須賀線横浜方面行 1,120人       井田行 3,386人  
  元住吉乗換東急横浜方面行 1,097人       久末行 3,109人  
            新百合ヶ丘乗換小田急厚木方面行 2,589人  
新百合ヶ丘発地元利用者数 8,522人 のうち     新百合ヶ丘直通小田急多摩線方面行 1,262人  
  宮前平乗換東急渋谷方面行 1,144人            
  宮前平乗換東急中央林間方面行 955人     京急品川方面発川崎乗換利用者数 12,978人 のうち
  元住吉乗換東急横浜方面行 801人       新百合ヶ丘乗換小田急厚木方面行 2,646人  
  元住吉乗換東急小杉方面行 767人       元住吉乗換東急横浜方面行 1,497人  
            宮前平乗換東急中央林間方面行 1,493人  
小田急新宿方面発新百合ヶ丘乗換利用客数 10,781人 のうち          
  長沢行 3,923人            
  医大前行 824人            
  蔵敷行 731人            

 この需要予測結果から読みとれることはなにか。
 それは、川崎を縦貫する需要は実はさほどなく、放射状路線からのフィーダーとして機能するであろうということ、また首都圏広域需要(主に渋谷・東京都心・横浜都心への通勤)の一経路となるであろうということなんです。
 極端な表現をすれば、川崎縦貫鉄道とは、川崎市民のためのものではなく、「川崎都民」や川崎付近を通過していく需要のために存在するとみなせます。
 してみると、川縦プロジェクト批判の最先鋒は「そのような広域需要を担う鉄道整備をなぜ川崎市交通局が単独で建設しなければならないのか」という点に尽きなければいけません。この需要予測が傾向として正しいとみなす限り、川縦は川崎市の鉄道とは認めにくく、神奈川県もしくは首都圏の鉄道ととらえるべきなのですから。

 以上の点に気づいたのは、「元住吉接続」がヒントになっています。元住吉には急行は止まらないけれど、目黒線経由三田線直通で東京都心に一直線というアドバンテージがあるなあ、という発想からOD表を見渡してみれば、出るわ出るわの芋蔓です。串間様、かまにし様、御教示頂きましてありがとうございました。

通過旅客がここまで多いとは
 投稿者---串間氏(2003/06/26 23:15:25)

 和寒様、ありがとうございます。

■悪印象を誘導する記述
 素人には読んでいてもサッパリ気付きませんでした。私としては、市民部会はそうした専門知識が無いため稚拙な記述になってしまった、と好意的に(???)解釈したいと思います。

■木を見て森を見ない需要予測批判
 一応補足説明です。
 今回の需要予測においては平成7年度のものですが、将来的な鉄道整備がなされるものとして需要予測は立てられています。以下の表は資料にあるp15のコピーです。

平成27年度に既設路線に追加される主な路線計画

  路線名 区間 詳細
平成23年度迄 JR埼京線 恵比寿〜大崎 快速列車運行
JR南武線 川崎〜登戸 快速列車運行
東京臨海高速鉄道 東京テレポート〜大崎 大崎でJR埼京線と相直
東京臨海新交通 有明〜豊洲  
営団13号線 池袋〜渋谷 渋谷で東急東横線と相直
小田急小田原線 代々木上原〜向ヶ丘遊園 複々線化
東急大井町線 二子玉川〜溝の口 複々線化
東急東横線 多摩川〜日吉 複々線化
みなとみらい21線 横浜〜元町 横浜で東急東横線と相直
横浜4号線 日吉〜中山  
東京モノレール 羽田空港〜新東ターミナル 延伸
京急空港線 羽田空港〜新東ターミナル 延伸
東急田園都市線   あざみ野駅で急行列車停車
平成27年度迄 京急大師線 川崎大師〜川崎 連立化(本路線と相直)
神奈川東部方面線 二俣川〜大倉山 大倉山で東急東横線と相直
東急東横線 日吉〜大倉山 複々線化延伸
横浜3号線 あざみ野〜すすき野 延伸

資料 http://www.city.kawasaki.jp/82/82tetudo/home/pdf/gakusiki-4.pdf
551planning註:達成済みは青字で表示した

 見ての通り、一部路線ではすでに達成されています。個人的な感想を言えば、小田急線の複々線化と神奈川東部方面線・東横線の日吉−大倉山の複々線化を除けば達成されると感じます。
 また大師線との相直は標準軌から狭軌に変更されたことで開通時にはなくなりましたが、代わりに小田急多摩線との相直が行われ、そして横浜3号線延伸を見込んでいます。これが私が前に言ったところで、需要予測に影響を与える部分です。なお、多摩線との相直では4%の需要増、つまり多摩線からの利用者がほぼ倍増すると試算されています。
 元住吉に関して大きいのは、今後営団13号線との相直まで加わります。そうした面まで加えての試算ということもあり、確かに面白いところではあります。

 この需要予測結果から読みとれることはなにか。
 極端な表現をすれば、川崎縦貫鉄道とは、川崎市民のためのものではなく、「川崎都民」や川崎付近を通過していく需要のために存在するとみなせます。
 してみると、川縦プロジェクト批判の最先鋒は「そのような広域需要を担う鉄道整備をなぜ川崎市交通局が単独で建設しなければならないのか」という点に尽きなければいけません。この需要予測が傾向として正しいとみなす限り、川縦は川崎市の鉄道とは認めにくく、神奈川県もしくは首都圏の鉄道ととらえるべきなのですから。

 考えも及びませんでした。
 おそらく市民部会のメンバーもそうだったのでしょう。そのように発想するのではなく、こんなに通過旅客がいるわけがない、というふうにしか考えられないからです。これは私もそうです。運賃の高い地下鉄を経由する旅客がそんなに多いわけがない、という発想からしか批判を加えられないのです。
 実際通過旅客(川縦沿線に用がない、もしくは沿線利用者以外の人)を読み取ってみます。

http://www.city.kawasaki.jp/82/82tetudo/home/pdf/gakusiki-7.pdf

 全線開通時298,608人/日のうち75,561人/日が通過旅客、つまり全体の約25%が通過旅客の利用であるということです。需要予測表を参照する上での前提条件が少し変わりましたが、その点は無視しています。
 こんなに多いとなると、私も信じられなくなってしまうのです。ただ、仮にそうだとすると、いかにも変な話です。川崎市が65%もの出資をして作る投資対象とは思えないほどです。

 学識者部会の会議録を見るとこんな興味深いやり取りがあります。以下は原文そのままの引用です。

(委 員)
事業費の縮減手法の検討で,経営形態とか,PFI,上下分離にするとか,それらは議論しないのか。様々な費用縮減のための方策として,たとえば外注などの議論は検討の中に入るのか。例えば駅にお店を出してもらうとか,そういう話も含めて,コスト負担を減らして行こうというところも検討のポイントに入れていいのか。

(事務局)
経営形態は,基本的に公営ということで意思決定しているので,この基本スタイルは崩さずに議論いただければと思う。ただ部分的に,PFI的な手法の可能性がないかどうか,外注の可能性等も含めて,可能なかぎり追求していきたいと考えている。

学識者部会会議録 http://www.city.kawasaki.jp/16/16gyozyo/home/kaigi/11-140215.htm

 おそらく川崎市は地下鉄も市民サービスとしてがんばろうとしたのでしょうが、それがあだになったとすら感じさせられてしまうのです。

「森」はどこにあるのか
 投稿者---和寒氏(2003/06/27 06:41:40) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 串間様、発展的な議論ありがとうございます。

 こんなに通過旅客がいるわけがない、というふうにしか考えられないからです。これは私もそうです。運賃の高い地下鉄を経由する旅客がそんなに多いわけがない、という発想からしか批判を加えられないのです。

 そのように発想するのはよいのです。とはいえ、市民部会は需要予測の読み方に固定観念がありすぎて、些か否かなりズレた方向を批判しているように見えます。
 詳しくは学識者部会の検証とも突き合わせる必要はありますが、一晩かけても印刷が終わらない重さでしたので、今のところの印象のメモを。

  1. 川崎乗換の評価
京急品川方面−−(川崎乗換)→川縦  12,978人
東海道品川方面−(川崎乗換)→川縦 2,381人
京浜東北品川方面(川崎乗換)→川縦 3,566人

 この数字のバランスをどうとらえるか。川崎での乗換形態による適切なものなのか。

  1. 南武線を意識しすぎ
     小田急多摩線・厚木方面→川縦−(宮前平)→東急渋谷方面という流れは、もともと下北沢から京王井の頭線に乗り換えていたはず。
     同じく小田急多摩線・厚木方面→川縦−(元住吉)→東急小杉方面という流れは、もともと千代田線直通か、新宿乗換中央線などが太宗であったはず。
     してみると、比較を南武線に限定し、個別ODをとりあげておかしいとするのは、まさに重箱の隅。視点が川崎市内に固まりすぎているように見えます。
     
  2. 暫定総評
     川縦に大きな需要があるわけがない、との疑いを持つことじたいは決して批判しません。川崎市内需要の少なさを広域流動をかぶせて誤魔化そうとしていないか、急行運転の設定はそのための恣意的操作ではないか、という疑いを持つこともまた批判しません。
     しかし、いみじくも串間様が記したとおり、川縦に適用された需要予測手法は運輸政策審議会答申の中で使われた(当然その内容は厳格に吟味されているはずです)実績があり、さらにそれ以前からの長い時間を経て研鑽されてきたという歴史があります。勿論、だから批判してはいけない、とはいえません。批判するならば正しい批判をしなければいけない、ということです。
     先にも記しましたが、市民部会の川縦批判は、南武線に偏重しすぎです。川縦が南武線に勝てるわけがない、との固定観念に加え、川縦開業により南武線利用者がどれだけ減るかの検証さえ加えていないのです。
     繰り返しになりますが、批判は正しい方法によりなされるべきです。

南武線vs横浜線vs川縦線での批判は間違いか
 投稿者---串間氏(2003/06/28 13:40:06)

 和寒様、ご苦労様です。

1)川崎乗換の評価
 この数字のバランスをどうとらえるか。川崎での乗換形態による適切なものなのか。

 学識者部会の報告書を読まれたならば既にお分かりかと思いますが、適切なものと感じます。
 乗換時分計算結果については資料のp17にあります。
 

縦貫線 南武線
 新百合ヶ丘 ※ 2.7分  登戸 ※ 3.4分
 宮前平 2.6分  溝の口 4.4分
 元住吉 3.7分  武蔵小杉 3.3分
 新川崎 5.0分    
 京急川崎 4.1分    
 川崎(東海道・京浜東北) 6.8分    
 川崎(南武) 7.0分    

資料 http://www.city.kawasaki.jp/82/82tetudo/home/pdf/gakusiki-4.pdf

 これは乗換所用時分の計算です。待ち時間(4分で計算)を除外しています。
 その後計画に変更があったので、新百合ヶ丘では多摩線相直、川崎では大師線との相直がなくなっています。但し、需要予測は前述のとおりに計算がなされています。京急本線との乗換時分はそれほど変化しないでしょう。
 ちなみに川崎駅と京急川崎駅の間は、京葉線東京駅を彷彿とさせるレベルの乗換の不便さがあり、この乗換抵抗は京急がJRに比べて苦戦している(JRに比べて乗降客が3分の1)ことにも、かなり大きく作用していると考えることができます。つまり南武線の需要をほぼ丸ごと持っていける現在の駅構造は、JRが大きく受益していると言えます。
 川縦線が京急川崎寄りであることで京急線の需要がアップするでしょうし、南武線が東海道・京浜東北線と乗換の便がいい事から、南武線と川縦線はそれぞれ棲み分けが達成されるでしょう。また、JRに集中する事態を緩和することにも役に立ちそうです。

 個人的にはJRからの流入の方を過大に見積もっているのでは、と思うぐらいです。完全に主観混じりですが。
 一番気になるのは圧倒的なバスアクセスを誇る川崎駅地元利用者となります。地下に直接つける形から、南武線とほぼ互角に持ち込んでいるでしょうが、この乗換がうまくいくかは非常に重要な要素となりえます。

2)南武線を意識しすぎ
 してみると、比較を南武線に限定し、個別ODをとりあげておかしいとするのは、まさに重箱の隅。視点が川崎市内に固まりすぎているように見えます。

3)暫定総評
 先にも記しましたが、市民部会の川縦批判は、南武線に偏重しすぎです。川縦が南武線に勝てるわけがない、との固定観念に加え、川縦開業により南武線利用者がどれだけ減るかの検証さえ加えていないのです。
 繰り返しになりますが、批判は正しい方法によりなされるべきです。

 目から鱗です。和寒様、ありがとうございます。
 市民部会は南武線と横浜線に全ての乗客が転移(京急線乗換客を除く)するという計算をして(他にもいじっていますが)あの数字を出しています。
 しかし、その数字ですら本来は微々たるものに過ぎないということですね・・・。確かに圧倒的に混雑している放射路線からの乗換と言うことを考えると、うなずけるような気もします。
 通勤時では、小田急本厚木方面から川縦線に乗り換えるのは13,484人、仮に6時30分から8時30分までの間のみ通勤利用であると考えると、急行22本準急9本各停15本で430両(急行準急は10両、各停は8両)。一つのドアから8人降りる程度の需要で川縦の需要が過大と考えられることになります。もちろんこの方法は極めて簡易的な方法で、時間まで制限していますし、川縦沿線への乗客も4,884人含んでいることもあり、決して乗換需要はもともと大きいパイではないということになります。

 私はかつて小田急を利用していたから分かるのですが、小田急から南武線への乗換は下北沢(井の頭線)や代々木上原(千代田線)に比べたら少ないです。が、そんな数字であっても大きな数字が出てしまうことが、首都圏の鉄道輸送のパイの大きさを感じずに入られません。そして南武線は非常に混雑しています。
 市民部会はこうした小さな需要を積み重ねた結果、こんなに増えてしまった、としています。
 しかし、南武線と横浜線を過剰に意識しすぎているという和寒様の発言は、今までの川縦への批判が下手すると全て無効になってしまうほど、重要なものを含んでいるように感じます。
 なにやら難しいです。ただ、いじった場合、需要がゼロになることによる他への影響を考えずに論ずるのは危険である、ということなのでしょうか。そして前述されたとおり、批判を加える場合その手法に対して批判を加えるべき、ということでしょうか。
 唯一市民部会がその手法で批判を加えた部分は、駅勢力圏が1.5kmでは広すぎる、というところにとどまるようです。

 なんか全然まとまとまっていませんし、おまけに乱文になっていますがお許しを。
 元住吉の乗換の意外な強さも明らかになりましたが、新川崎の需要予測の低さも少し気になります。湘南新宿ラインができたことにより影響は相当大きいはずで、ここについても議論の余地がありそうです。一方、田園都市線利用者がかなり多いことも考えると、宮前平に関する危惧があります。
 仮に羽田空港までの区間ができると、川崎市どころか、関東地方全体に資する地下鉄になってしまうわけですが・・・。
 では失礼致します。

川縦のロケーションにおける需要予測に対する認識
 投稿者---和寒氏(2003/07/06 06:28:23) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 川崎市長が市営地下鉄の建設を5年程度延期する方針を表明した。市の財政悪化で市民の反対論、慎重論が強まり、アンケート結果を尊重しての判断だった。
 この計画は1960年代から検討され、行政の悲願だった。同市は多摩川沿いに南北に細長く、長年工業地帯の南部と住宅地域の北部で行政サービスの格差が指摘されていた。地下鉄建設は市内を自前の鉄道で一本に結び、北部の住宅地域から南部の都心部に乗り換えなしで行ける市民の足になるはずだった。
 市は国に陳情を重ね、3年前の運輸政策審議会答申に2015年までに整備すべき路線として盛り込まれた。国のお墨付きを得たことになる。同年8月の旧運輸省の概算要求に新規補助路線として書き込まれ、市民の多くがこの時初めてその計画を知った。反対論が強まったのもこの時期からだ。
 市の北部から中部にかけては三本の私鉄路線が東西に走り、東京都心部への通勤路線となっており、住宅地域はこの都心部への利便性で形成されてきた。南北ルートはJR南武線が担っており、市民税を負担する立場から見ると、なぜもう一本の南北路線が必要なのかという疑問がわく。もともと東西方向の需要で成り立っている鉄道市場を行政の思惑で南北方向に変えることなど不可能で、細長い市内だけを通る行政のルート設定そのものに無理がある。
 4,000億円強の負担をするのなら利用する必要のあまりない鉄道より高齢化に対する施設や防災対策に、というのが一市民としての声である。

■平成15(2003)年 6月25日付交通新聞「墨滴」より全文引用
(引用者注:漢数字はローマ数字に変換した
)

 以上の記事は内容的に重要な点を示唆しているので、敢えて全文を引用しました。交通新聞といえば最有力の業界紙であるというのに、この程度の認識しかないかと知れば愕然とせざるをえません。まあ、末文に記されているように、川崎市民としての思いが強すぎるあまりとも受け止めたいですが、それでもやはり誤解が多いようではあります。

 まず「東西」「南北」はそれぞれ「放射状」「環状」と置き換えるべきでしょう。川崎付近において地理的に不正確であるため、誤解を与えやすいからです。
 そのうえで「放射状」路線の特性を考える必要があります。都心アクセスがそれぞれ異なることにすぐ気づくところで、小田急は新宿(千代田線経由で大手町)、東急は田園都市線も東横線も渋谷(半蔵門線・目黒線経由で同じく大手町)、東海道線は東京、となります。
 その際、川縦や南武線がどういう位置づけの「環状線」となるのか。例えば武蔵野線であれば、そのロケーションからして、放射状路線のフィーダーにしかなりえないでしょう。しかし、川縦あるいは南武線の場合は、単なるフィーダーとしてだけではなく、東京都心(大手町付近)←→小田急線・多摩線・東急田園都市線をつなぐ「放射軸」の一翼を担えるロケーションにあることが、地図上で見てとれるでしょう。

 そういう路線をつかまえて「なぜもう一本の南北路線が必要なのかという疑問がわく」と断じてしまうのは、素人談義はともかくとして、業界誌としては見識が問われるところです。
 市民部会の「川縦は南武線に対抗できるはずがない」という思いこみに至っては、さらに問題といえます。学識者部会では、流動が大きいODをピックアップして検証するという、太宗を押さえた科学的考察を加えているのと比べ、恣意的操作と指摘されてもしかたない手法で数字を調整しているからです。
 学識者部会の検証で示された川縦以外の選択経路は、勿論南武線や横浜線も出てくるけれど、例えば京王井の頭線や東急世田谷線・大井町線など、一寸見には意外な路線さえ出てくるのです。つまりそういう路線が選択経路となる主要ODが検証されている、ということなのです。

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 従って、串間様の「南武線vs横浜線vs川縦線での批判は間違いか」という疑問に対しては、「間違いです」と明確に答えなければなりません。
 首都圏では、世界的にも珍しい、高度な鉄道ネットワークが発達しています。その中での利用者の流動は、放射状・環状という単純な認識では括りきれません。その意味で市民部会の認識は浅すぎるといわざるをえませんが、業界誌トップの交通新聞記事でさえ同程度の認識ですから、やむをざる仕儀かとも思われます。

川崎縦貫の特性を理解すること
 投稿者---串間氏(2003/07/06 14:08:52)

 和寒様、丁寧な解説ありがとうございました。

 ここまでいろいろと議論を踏まえてきて分かったことがあります。それは多くの方々の川縦への重要性・必要性についての認識への変化です。
 私も大きく認識を変えさせられたのですが、首都圏における高速アクセスルートの確立・乗り換え抵抗緩和、さらには鉄道不便地域の救済という純然たる鉄道敷設の条件を満たしています。
 そういったこともあり、以前の発言との整合性が次第に失われているのは自覚するところですが、資料を読む、議論を重ねる、などの方法で追究してきて、そういった認識にさせられるほどの実力を川縦は実はもっているのだ、ということには驚かされています。もっとも、そうした資料のほとんどを公開してくれている川崎市に感謝しなければならないでしょうが。
 とりあえず私ができるレベルの話ですが、レスしたいと思います。

 和寒様御提示の交通新聞を含め、大手新聞も極めて浅くしか突っ込んでいません。少なくとも現在の不便地域の現状を把握しているようには感じられないです。川崎へのアクセス需要も、京浜工業地帯の一翼を担っている以上確かに大きいものですが、全体から見ればそれはたいした量ではありません。
 朝日新聞ではアンケートの結果から「こんな地下鉄乗らない」という題目で市長の判断を支持していましたが、南武線アクセス圏内に在住している私ですら、南武線には月1回乗るか乗らないかというレベルであり、同様のアンケートをとった場合に南武線にも「乗らない」という結果が突きつけられないとも限りません。

 確かに川崎縦貫を「南北軸」として見れば誰もが疑問を持つことでしょう。私も最初はそうでした。ただ、ここの線へのフィーダーとしての集まりを直通させることによる、広大なネットワークの形成と考えれば、この路線の意味を理解できるような気がします。
 これは多くの人が連想しやすい「南武線で十分だ」という陥りやすい誤解とも重なります。南武線で十分と思っている人は、現在の南武線の状況も理解していないという現実も確かに存在しているのですから。仮に知っていれば、南武線でどうにかなるとは誰もいえないでしょう。
 南武線と同様に、川崎縦貫も基本的に川崎方面への需要に偏ります(厳密には異なりますが)。【通勤目的】のODを整理して示すと、

路線名 川崎縦貫からの流入客 川崎縦貫への流入客
小田急小田原線

6,396

(6,149)

16,201

(7,821)

田園都市線

15,925

(17,400)

10,230

(4,531)

東横線・目黒線

18,571

(27,007)

9,340

(2,157)

横須賀線

10,140

 

4,537

 

東海道・京浜東北線

5,126

 

869

 

京急本線

12,388

 

1,900

 

( ) 内は部分開通時

 つまり極論すると、小田急線の混雑救済・京急線の需要向上のためとも取れる路線といえます。田園都市線は現在のバスの集中を考えるとなんともいえないところですが。

 私から見れば、各線へのフィーダーとしての役割である事は、地元から見て当然(基本的に市内北・中部のほとんどは東京都心へ向かっている)だったのですが、仮にそれだけだとすると、南武線の混雑が説明できないということになります(沿線住民はそれほどではないため)。つまり通過旅客の存在が無視できません。

 というわけで、南武線や横浜線と同様、川縦線が担う役割というのは和寒様がおっしゃった

 川縦や南武線がどういう位置づけの「環状線」となるのか。例えば武蔵野線であれば、そのロケーションからして、放射状路線のフィーダーにしかなりえないでしょう。しかし、川縦あるいは南武線の場合は、単なるフィーダーとしてだけではなく、東京都心(大手町付近)←→小田急線・多摩線・東急田園都市線をつなぐ「放射軸」の一翼を担えるロケーションにあることが、地図上で見てとれるでしょう。

 という発言に凝縮されます。

 もちろん、こうした需要は決して全体からみれば大きくなく、数%のオーダーでしかないことも需要予測で明らかになっているのですが、それは大混雑につながっている南武線・横浜線の現状を考えれば確かに理解できます。「ほとんど利用しない」という需要でも、積み重ねるとそれだけの乗客数につながるのだな、ということです。一経路として利用されることが不可思議に見えても、それは実のところは森の中の数本の木に過ぎない、と。
 市民部会はその小さい需要を全て消し去ったわけなのですが、仮にそれを肯定すると南武線利用も肯定できなくなります。つまり矛盾です。確かに川崎縦貫は料金面でも不安はあるところですが、同時に利便性を確保しているところも存在していますし、速達性の需要も確実に存在します。それを踏まえれば、料金だけでそのような解析をした市民部会の方法は間違いということになります。
 こうしたことを踏まえれば、川縦は決して鉄道不便地域の改善だけにとどまらないのだ、という認識を新たにさせられました。

急行運転の疑問への答え
 投稿者---串間氏(2003/07/06 22:29:47)

 そして、この川縦の性格を理解することで、急行運転による需要の変動を理解することができました。
 南武線の快速運転がないという仮定においても、急行運転をしないと全線開通では18%の需要減少、部分開通時では11%の需要減少が、それぞれ見込まれています。
 仮に完全な環状線ならば、各線へのフィーダーですから、普通列車を充実させることによるサービスの方が、向かう先が都心である以上、適しています。よって快速運転は意味がないといえます。
 しかし、一連の議論から明らかになったように、通勤の一経路となっている川崎縦貫は放射路線としての性格ももっていることが明らかになっています。放射路線であれば、急行運転が無いことによるダメージが大きい事は理解できるところです。
 所要時間が短くなるぐらいじゃあ・・・という印象だったのですが、こうした前提を元に考えてみれば、急行運転によるマイナスの幅が現実味を帯びていると感じることができます。

感度分析表 http://www.city.kawasaki.jp/82/82tetudo/home/pdf/gakusiki-8.pdf

 同時に、南武線の快速運転に対する需要も大きいことが予想されます。もちろん、南武線の場合は途中の武蔵新城・武蔵中原の地元利用者がかなり多いため、単純に停車駅を設定することは難しくなるわけですし、現在の混雑・集中率では手の打ちようがないといえます。
 ただ、南武線のあり方を行例がコントロールできていない事は、現在の本数を見れば明らかです。黒字路線に市が大量のお金を投入してJRが儲けるなどといった方法は、個人的には好きではありません。JRのやる気の無さから、私が南武線に対して嫌悪感を抱いていることは、主観の強いところですが述べてさせていただきます。
 仮に南武線を便利にするならば、川崎縦貫というライバルが必要である、という考え方は十分に通じる話です。

 同時に、混雑緩和のための新線というのは、首都圏では放射路線が充実しているということもあり、各線間に何本も整備していくことが現実的ではない以上、こうした山手線の手前であらかじめ移動をさせておく交通は、今後必要とされてくるのではないかという感触を受けました。
 現在の神奈川県へ向かう放射路線のほとんどはパンク状態にあるだけに、この鉄道を川崎市だけの問題にしておくことは、少々頂けないと感じます。なぜならば、これらの路線の混雑緩和に役立つという評価が出ているのですから。
 和寒様の意見と大きくかぶるところが多かったとは思いますが、私からの川崎縦貫への需要予測への疑問は一応の結果が出たと思います。学識者部会においてはあまりにも専門的で淡々と解析していたために見えなかった点も多かったとは思いますが、一連の議論を見ればわかりやすかったのではないかと思います。

2004.11.02 Update


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