【検証:】過去ログSpecial

【検証:近未来交通地図】Special015
「のぞみ」シフトを検証する
(03/01/16〜/17)

 本投稿は、【検証:】掲示板でもお馴染みの、和寒様より当BBSに御投稿頂きました文章を、読みやすく構成させて頂いたものです(なお一部文面を編集しております)。 また、文中の写真は和寒様に所有権帰属となります

 なお、【検証:】では掲示板投稿に限らず広く皆様からの御意見・レポート等を御紹介致します。自分ではホームページを持っていないけれど、意見が結構纏まっている…という貴方、各種ご相談に応じますのでお気軽に管理人までどうぞ!

下記内容は予告なしに変更することがありますので、予め御了承下さい。
当サイトの全文、または一部の無断転載および再配布を禁じます。



ひかりからのぞみへ「?」(RJ記事への異論) ../log092.html#2
「のぞみ」と「昼特急」と「青春18」の経済学 
../log093.html#6

経緯編(2003/01/16 01:26:11)

 拙HPに下記の一文をアップしました。東海道新幹線の今日までの経緯のおさらいです。後半の評価編には、さらに力を入れるつもりです。

以久科鉄道志学館 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/nozm/00.html

■経緯

 東海道新幹線は、昭和39(1964)年10月に開業した。「ひかり」の東京−新大阪間所要時間は徐行区間の多さから240分、翌40(1965)年には徐行区間がほぼ解消され 190分であった。この時の車両は0系で、最高速度は210km/hである。在来線時代の旧「こだま」が390分を要していたことを考えれば、飛躍的な時間短縮が実現したといえる。
 極めて革新的であった新幹線であるが、開業後は長い期間に渡って大きな発展が見られなかった。東京−新大阪間所要時間が188分に短縮(といってもわずか2分)されたのが昭和60(1985)年、新系列車100系の数が揃い最高速度が220km/hに向上されたのは翌61(1986)年と、所要時間短縮・最高速度向上に20年余も要している。
 二階建て100系は性能もなかなか優れており、ATCの改良とあいまり、東京−新大阪間所要時間を169分まで短縮した。しかし、所詮はマイナーチェンジ車にすぎず、騒音基準をクリアできないこともあって、これ以上の進歩は期しがたかった。
 そこに登場したのが300系である。300系は最高速度270km/hと性能が大幅向上されたフルモデルチェンジ車で、試作編成が平成2(1990)年に就役、翌3(1991)年に当時の最高速度記録325.7kmを達成した。さらに長期耐久試験を経た平成4(1992)年3月に、JR東海は「のぞみ」の運行を開始した。「のぞみ」は国鉄分割民営化後の大きな画期として予め位置づけられ、JR東海にとっては今後の基幹列車という期待を背負っていたのであろう。東京−新大阪間所要時間は150分と、100系「ひかり」と比べても19分、0系「ひかり」時代から比べれば38分もの、実に劇的な短縮が実現された。
 のちに「のぞみ」には最高速度300km/hの500系(JR西日本保有)も投入されたが、この最高速度が発揮されるのは山陽新幹線区間だけであり、東海道新幹線の大勢には影響を与えていない。
 「のぞみ」は平成8(1996)年3月に毎時2本運行が、平成14(2002)年3月には毎時3本運行がそれぞれ確立され、現在に至っている。

新丹那トンネルから顔を出す100系列車(平成12(2000)年撮影)

 端正にして精悍、たいへん優れた外観デザインである。とはいえ、性能面ではマイナーチェンジにすぎない面があり、大幅な進歩を刻むことはできなかった。2階建て車両4両を組みこんだ「グランドひかり」は既に引退、それどころか「ひかり」運用は平成15(2003)年初頭現在で名古屋−博多わずか1往復のみ、東海道新幹線では「こだま」運用からも逐われつつある。山陽新幹線の4両編成を見ると、デビュー当時の堂々16両編成からの零落が強く感じられる。

■現在の「のぞみ」と「ひかり」

 平成15(2003)年初頭現在の「のぞみ」と「ひかり」を以下に比較する。

列車種別 東京発時刻 所要時間 備考
のぞみ 00新大阪 20新大阪 53博多 150分  
ひかり 26新大阪※ 30新大阪 170分 「のぞみ」待避なし
ひかり’ 03広島 10博多 46岡山 180分 「のぞみ」待避あり
ひかり” 37新大阪〜博多 183分 名阪間各駅停車
 太字:主に定期列車枠
 太※:昼間帯には運行なし
 細字:主に臨時列車枠
 所要時間:東京−新大阪間標準

 ちなみに、「のぞみ」毎時2本運行末期時点での比較は下記のとおりである。

列車種別 東京発時刻 所要時間 備考
のぞみ 00新大阪 52博多 150分  
ひかり 03新大阪 07広島・博多 14新大阪 21新大阪 28新大阪※ 176分 「のぞみ」待避なし
ひかり’ 45岡山 181分 「のぞみ」を静岡停車で2本待避
ひかり” 38新大阪・岡山 182分 名阪間各駅停車

多摩川を渡る300系列車(平成12(2000)年撮影)

 新幹線のさらなる発展系、270km/h運転「のぞみ」のさきがけとなった画期的な車両である。外観デザインも、先頭に収束点があるため、あんがい締まっている。今では「のぞみ」運用からは外れ、「ひかり」「こだま」運用に就いている。近い将来に品川駅が開業し、「のぞみ」シフトが進めば復活する可能性はあるだろうか。

 分析編(2003/01/16 15:30:43)

■「のぞみ」と「ひかり」の所要時間差

 東京−新大阪間の「ひかり」所要時間は、旧ダイヤではほぼ均一であったが、現ダイヤでは大きく2タイプに分類できる。
 速達型「ひかり」の東京−新大阪所要時間は「のぞみ」により近づいており、「のぞみ」大増発は指呼のうちと理解できる。この速達型「ひかり」は位置づけが難しい。枠だけが確保され、基本的には運行されない列車にも見える一方、運行が朝夕に集中していることから、ビジネス層などヘビーユーザーの利用も多いと考えられる。
 従って、速達型「ひかり」と通常型「ひかり」は、無理に一本化することを避け、それぞれ個別の列車と扱うことにする。
 東京−新大阪間の「のぞみ」「ひかり」所要時間差は、下記のとおりである。

ダイヤ 列車種別 所要時間差
現ダイヤ 速達型「ひかり」 20分
現ダイヤ 通常型「ひかり」 30分
旧ダイヤ 「ひかり」 26分

■「のぞみ」と「ひかり」の運賃料金差

 東京−新大阪間の運賃料金は、通常期普通指定席で「ひかり」が13,750円、「のぞみ」が14,720円で、その差額は 970円である。
 ここで、東海道山陽新幹線の主要区間には「新幹線ビジネスきっぷ」が設定されている。東京−新大阪間では25枚綴りとかなりのヘビーユーザー向けながら、1枚ずつ切り離して利用可能であることから、出張時の現物支給あるいは金券ショップでの個人購入も多いと考えられる。
 「新幹線ビジネスきっぷ」の1枚あたり単価は12,160円で、「ひかり」の普通指定席を利用できる。なお、事前に「のぞみ変更券」を求めておくと、「のぞみ」の利用も可能である。利用上の制約が多い回数券タイプの乗車券においては、柔軟な対応といえるだろう。この「のぞみ変更券」の単価は東京−新大阪間で2,350円である。

 参考までに記せば、「のぞみ回数券」は 6枚綴りで1枚あたり単価は14,510円である。つまり、「のぞみ変更券」は、「新幹線ビジネスきっぷ」と「のぞみ回数券」の差額全てを求めるものである。

小倉を出発する500系「のぞみ」(平成10(1998)年撮影)

 現時点で世界最高タイ300km/h運転が可能、駅間表定速度は世界最高、日本の鉄道の誇り、新幹線の究極系である。円形に近い車体断面、細長く尖った先頭形状、優れた高速性能はすぐれて個性的な外観デザインを導いた。ただし、300km/h運転は山陽新幹線区間のみ、またJR西日本保有の編成しかないマイノリティーでもあり、その点はいかにも惜しい。車内空間が窮屈に感じられるのも、利用者にとっては好ましくないところだ。

■利用者の分類

 前述した「のぞみ変更券」の価格設定は、問題を含んでいるといわざるをえない。即ち、「新幹線ビジネスきっぷ」を利用可能か否かにより、「のぞみ」に対する見方が変わってくるのである。
 そのため、利用可能な列車と乗車券に応じた、利用者の分類が必要である。ここでは、下記のように分類してみた。

ダイヤ\乗車券 「ビジネスきっぷ」利用可能層 「ビジネスきっぷ」利用不可能層
現ダイヤ速達「ひかり」利用可能層 A1 A2
現ダイヤ速達「ひかり」利用不可能層 B1 B2
旧ダイヤ C1 C2

■「のぞみ」による時間短縮の金額換算
 以上までの分類にのっとり、「のぞみ」による東京−新大阪間の所要時間短縮を金額に換算する。

A1: 117.5円/分  A2: 48.5円/分
B1: 78.3円/分  B2: 32.3円/分
C1: 90.4円/分  C2: 37.3円/分

 これを見ると、「のぞみ変更券」の価格設定がいかに高水準であるかが理解できる。

 評価編(2003/01/17 22:26:39)

■時間価値から見た「のぞみ」の効用

 時間価値は属性や計測手法により大きな幅をとるが、業務目的の地域間交通では50〜80円/分程度となるのが普通である(ここでの数字の幅は個人差ではなく計測手法の違いによる)。つまり、A2〜C2の「のぞみ」利用に要する追加投資は時間価値より小さく、A1〜C1の「のぞみ」利用に要する追加投資は時間価値よりも大きい。即ち、「のぞみ」を利用することにより、A2〜C2は受益し、A1〜C1は受損する。
 この時なにが起こるか。A2〜C2においては「のぞみ」を利用するインセンティブが働き、また全体として需要が伸張する。(図1)

 これとは逆に、A1〜C1においては「のぞみ」を利用するインセンティブが働かず、「のぞみ」利用を迫られる状況下では需要が縮小する。実際にはまだ多数の「ひかり」が運行されていることから、A1〜C1層は受損する行動を敢えて採ることなく「ひかり」を選択し、「のぞみ」にはシフトしない。(図2)

(図1)

 

(図2)

参考:利用者便益分析の解説を試みる http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/benefit/00.html

■「のぞみ」は誰のもの?

 以上までの分析を通じてみると、「のぞみ」は「新幹線ビジネスきっぷ」を入手困難な一般利用者に支えられていると推測できる。実際のところ、一般利用者に対する「のぞみ」「ひかり」価格差は妥当な水準であるどころか、「のぞみ」の方が「ひかり」よりも効用が高い。ひょっとすると、JR東海はそれまで新幹線に目を向けていなかった層の需要の開拓をも狙っていたのかもしれない。
 その一方、ヘビーユーザーに対する「のぞみ」「ひかり」価格差は明らかに過大である。これほどの差額があると、JR東海にはヘビーユーザーの「のぞみ」集中を避ける意図があったとしか思えない。旧ダイヤは「のぞみ」毎時2本運行と銘されているものの、実質的には毎時1本運行であるから、「のぞみ」への利用者集中はあまり好ましくないことは確かである。
 従って、需要を平準化し、一般利用者とJR東海の二者に利益をもたらすという意味において、「のぞみ」「ひかり」の価格差設定は妥当であったといえる。
 しかし、この運賃料金設定を現ダイヤにも適用することについては、疑問を呈さざるをえない。「のぞみ」が毎時3本運行(実質的には2本)となり、「ひかり」は運行本数が減ったばかりか、全体的に所要時間が延びており、利用価値が下がっている。そんな状況で「のぞみ」「ひかり」価格差がそのままというのは、如何なものか。
 しかも、現ダイヤの速達型「ひかり」は「のぞみ」との所要時間差が短くなっている。新横浜停車「のぞみ」と比べれば東京−新大阪間で17分差しかない。してみると、価格差がそのままとは、整合性にいよいよ欠ける。
 現ダイヤに移行した時点で、「のぞみ回数券」「のぞみ変更券」の値下げを断行、一般利用者の価格差なみとするべきだったのではないか。いずれ大増発する方向性が示されているのだから、「のぞみ」を最高利用価値の列車として位置づけ、常に満席になるような価格設定をし、「のぞみ」待望論を呼ぶような環境構築をしておく工夫をしてもよかったように思う。
 そして、品川駅開業に伴うダイヤ改正時には「のぞみ料金」そのものを廃止するべきであろう。その時にはおそらく区間各駅停車型「のぞみ」も出てくるはずで、かような列車に「ひかり」を冠するとそれはそれで速達区間での整合がとれないからである。

 京都に到着する 700系列車「のぞみ」(平成13(2001)年撮影)

 新幹線の汎用系。最高速度285km/hと500系より後退しているが(しかもこの最高速度は東海道新幹線区間では発揮されない)、より経済的で、車内空間も快適である。前面形状は独特で、カモノハシというか靴べらというか。新幹線に愛嬌を感じる車両が登場するとは、正直なところ意外であった。

■「のぞみ」シフトの意義

 「のぞみ」は鉄道史の画期を刻んだ。20年以上もの長期間に渡って、わずかな進歩しか果たせなかった新幹線という交通システムに、最高速度向上・所要時間短縮の余地があることを示した。「のぞみ」の登場によって、東海道・山陽新幹線はもとよりのこと、整備新幹線までが大きな追い風を受けた。整備新幹線建設による所要時間短縮は、それまでに考えられていたよりも大幅な水準になり、その社会的意義がより大きくなると認識されたからである。「のぞみ」車両の開発は、新幹線インフラの価値をも高めたといえる。
 「のぞみ」は利用者には時間短縮メリットを提供した。特に一般利用者の受益が顕著であった。その反面、ヘビーユーザーに対する「のぞみ」「ひかり」価格差の設定は過大であり、その利用は抑制される傾向にあったといえる。これは「のぞみ」運行本数が少ない時代においては、需要の平準化に寄与するという意味において妥当な措置であった。また、「のぞみ」=最高クラス列車というブランドイメージ確立に、この価格差が影響を与えたかもしれない。そしてなによりも、「のぞみ」料金の設定はJRが得る利益を押し上げた。利用者側も事業者側も受益したのだから、「のぞみ」シフトの方向性は適切だったと高く評価するべきであろう。
 しかしながら、「のぞみ」3本運行ダイヤになった今日では、運賃料金設定の見直しが必要であろう。現時点では一般利用者とヘビーユーザーの「のぞみ」「ひかり」価格差を同水準に揃えるべきだろうし、品川駅開業時には「のぞみ」料金そのものを廃止するべきであろう。
 ヘビーユーザーへの「のぞみ」「ひかり」価格差を維持した場合、東海道新幹線の需要は確実に減退する。需要減退を避けるためには、たとえ一時的減収になろうとも「のぞみ」料金廃止は必須である。
 「のぞみ」を生かすも殺すも運賃料金設定次第、そんな重大な岐路にさしかかっている。

 (御案内)

 上記発表後、下記収録の議論経過を踏まえ、和寒様が「評価編」への加筆ならびに「結論編」の加筆改稿を行われました。過去ログ化に当たり、管理者の判断により議論経過の前後での意見の変化を明確化すべく、加筆部分については次ページにて別掲しております。

次ページへ

 なお、この論文につきましては和寒様のサイト「以久科鉄道志学館」にて加筆部分を修正した通しでの掲載がなされていますので、こちらも是非御覧頂きますよう御紹介させて頂きます。 (551planning@おさぼり管理人)

以久科鉄道志学館 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/nozm/00.html


JRと利用者の10年戦争
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/03/21 11:31:06)
 
 http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

JRと利用者の10年戦争
└「のぞみ」シフト補遺
 └Re:「のぞみ」シフト補遺
  └東海道新幹線の目指す方向はいずこ
   └補遺
    └Re:補遺
     └「のぞみ」対エアシャトルの分析
      └「公共」交通機関たるもの、ヘビーユーザーの為に存在すべし
       └補足します
        └データからの推測
        └クライアントの憂鬱
         └展論の予約

 JR東海と西日本は19日、10月1日に新幹線品川駅を開業するとともにダイヤ改正を行うことを発表し、同時にダイヤと料金の骨子を発表しました。

 最大で3−6−3から7−2−3へ、「のぞみ」中心ダイヤへの変更に当たって注目の料金ですが、「のぞみ」に自由席を3両設置し、自由席料金は「ひかり」と同額。指定席の「のぞみ」料金は結局山陽区間も含めて存続になりましたが、東京−新大阪の通常料金で670円の値下げと報じられていることから、現行の970円が300円へと大幅な値下げになるようです。
 もっとも、ユーザー最大の関心事である「新幹線ビジネスきっぷ」の価格や、各種企画券の「のぞみ」規制の存続についてはこの時点では発表が無く、その意味ではあまり意味の無い発表です。

 新聞は20日付の紙面で「『のぞみ』倍増、値下げ」(大阪朝日)といった感じで、大見出しで報じていますが、「ひかり」比での視点や、企画券の問題を無視しているのは遺憾で、提灯記事といわれても仕方が無い面があるでしょう。

●ビジネスきっぷはどうなる?
 ビジネスきっぷの料金がどうなるかですが、名阪間についてはもともと自由席限定ですから、自由席は「のぞみ」「ひかり」同額ということで、「のぞみ」に自由席3両の設定により、「ひかり」削減でも実質増加と利便性向上が見込まれます。実質所要時間の短縮もあいまって、近鉄のアーバンネクストが早くも苦境でしょうか。

 問題は東阪間です。ビジネスきっぷ1枚あたり12160円、のぞみ変更券2350円を加算すると14510円です。これは「のぞみ」回数券と同額ですが、「のぞみ」個札の14720円のわずか1.4%、210円引きで、閑散期には10円しか安くないという事実上の無割引というのは広く知られた問題ですが、これがどうなるか。
 「値下げ」後の個札は14050円といわれており、現行の割引率だと13850円、ただこれだと閑散期に意味が無くなりますから13840円でしょうか。つまりのぞみ変更券は1680円と670円の値下げになりますが、「ひかり」比では13.8%の値上げに他なりません。(現在ののぞみ変更券は19.3%の値上げに相当)

 個札での改正後の「のぞみ」料金は特急料金の5.7%、全体の2.2%に相当します。現行がそれぞれ18.5%、7.1%ですが、個札が2%程度の負担増に対し、回数券は14%では絶対的な負担感が重く圧し掛かります。
もちろん品川開業やスピードアップというコストアップを正当化するプラス要因もありますから、理解を得られる範囲での値上げを打ち出すことまで批判すべきではないでしょう。
 まあ全体のバランスから言うと、ビジネスきっぷなど新幹線関係の企画券を一律3%程度の値上げとして「のぞみ」規制を撤廃するのがベストではないでしょうか。東阪間だと1枚あたり12530円、370円の値上げとなるイメージです。

●過去の加算料金に見る妥当性
 かつて新幹線は「ひかり」と「こだま」で料金が違いました。しかし開業から11年目の1975年、博多開業を機に料金を同一化しています。この時は山陽区間で各駅停車の「ひかり」が出来るなど、料金格差の根拠が薄くなったことがあるのですが、この問題は72年の岡山開業でも発生しており、その時の東名間「ひかり」利用に限り400円増しというルールで対応可能なはずでした。

 この時の統一は「ひかり」料金への統一という実質値上げ。(名古屋のみ300円値上げ)まあ5割値上げを頂点とする大幅値上げの流れの中でインパクトも霞んでいますが、オイルショックに伴う狂乱物価においても、「ひかり」利用が主流だったこそ受け入れられた話です。
つまり、当時の東阪間「ひかり」個札は5010円、「こだま」は4610円です。一方で回数券は1枚4800円、つまり「こだま」利用だと回数券より安かったのですが、「ひかり」指向が高かったのです。「こだま」と回数券の価格差は190円。短縮される1時間の値段でもありますが、これは現行料金との比較で言うと500円程度。だからこそ受け入れられるレベルというところです。

●ユーザーとの「10年戦争」
 さて、92年の「のぞみ」登場から11年、93年の規格ダイヤ化からはちょうど10年です。「のぞみ変更券」創設、「ひかり」ダイヤの悪化という露骨な「のぞみ」誘導策にも拘らず、このJR東海と利用者の「10年戦争」は利用者の「のぞみ『No』」という明白な結果が出ています。
1年ほど前にJR西日本の首脳から、山陽区間での「のぞみ」料金撤廃を示唆する発言がありましたが、今回の正式発表でそれが幻になった訳ですが、現行の「のぞみ」料金に問題の所在があることは当のJRすら認めている訳です。実際、昨秋にJR東海の葛西社長が「のぞみ」料金への統一を匂わせたとたん、利用者のみならず経済界からも異論が出て、発言を撤回したように、世間が「のぞみ」料金に何を感じているかは明白です。

 今回の改正も、本来は利便性の向上を訴えて、広く薄く値上げする一元化で吸収し、逆に「のぞみ」「ひかり」「こだま」をフレキシブルに使い分ける利便性で還元するようにすれば、案外素直に受け入れられる可能性があります。もちろん「ビジネスきっぷ」が事実上そうしたスタイルになれば問題はないのですが、

●「一人相撲」を取ってはいけない
 よしんば「殿様商売」の謗りをものともせず、現行の実質無割引状態の継続を図っても、確かに個々の利用者は受け入れるでしょう。
ただ、東阪間の航空シェアがかつて「のぞみ」が出来る前は15%程度だったのに、新幹線が時間的競争力を増したはずの昨今は逆に30%程度まで伸ばしており、その傾向の加速も心配されます。事実、「のぞみ」のキャッチフレーズだった「朝イチの会議に間に合います」にしても、航空機の方が後から出て追いつくため、「のぞみ」に間に合わない近郊居住でも使えるということで、朝イチ対応は航空機容認というケースが増えています。

 また、ヘビーユーザーの「財布」は企業であり、その旅費は予算で縛られています。つまり、個々の出張は「のぞみ」解禁であっても、「ひかり」時代の予算枠に達したらお終い。つまり、JRの収入はトータルでは不変なのです。
このご時世、経費削減は当たり前ですが、増加する予算を組んで通ることはまずない話で、当のJRはまず自社の経理・予算部門に聞いてみるべきでは、と皮肉りたくなります。
 さらに、企業が2003年度予算を組み終えた後の時期のアナウンスですから、少なくとも10月改正から半年間は増やそうにも増えません。企業経済と直結している「ビジネス新幹線」にしてはお粗末な対応と思うのは私だけではないはずです。

「のぞみ」シフト補遺
 投稿者---和寒氏(2003/03/24 11:22:52) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 議論がだいぶ発展してきたところではありますが、敢えてここにレスをつけます。
 まず私自身の考えは「『のぞみ』シフトを検証する」に記したとおりでして、今までの経緯は是認、「のぞみ」を増発していく(というより「ひかり」を置換していく)今後については「のぞみ」料金廃止が妥当、というものです。

「のぞみ」シフトを検証する 015.html

●ユーザーとの「10年戦争」
 さて、92年の「のぞみ」登場から11年、93年の規格ダイヤ化からはちょうど10年です。「のぞみ変更券」創設、「ひかり」ダイヤの悪化という露骨な「のぞみ」誘導策にも拘らず、このJR東海と利用者の「10年戦争」は利用者の「のぞみ『No』」という明白な結果が出ています。

→この見立ては正反対にとらえるのが妥当だと思います。「『のぞみ』シフトを検証する」にも記しましたが、ヘビーユーザーの「のぞみ」集中を回避するためのダイヤ設定であり価格設定であったのだと思います。
 一般的な利用者、即ち「新幹線ビジネスきっぷ」を使いえない層は「のぞみ」料金を受容していますし、実際のところ「のぞみ」利用により追加料金以上の効用を獲得できます。
 つまりエル・アルコン様のいう利用者とはヘビーユーザーに限定されるものであって、また「利用者が『No』」という以前にJR側が需要をコントロールしていた面もあると考えられます。

●「一人相撲」を取ってはいけない
 ただ、東阪間の航空シェアがかつて「のぞみ」が出来る前は15%程度だったのに、新幹線が時間的競争力を増したはずの昨今は逆に30%程度まで伸ばしており、その傾向の加速も心配されます。

→このシェア変化に対するソース開示を求めます。また、できればシェアだけでなく、実数のデータもほしいところです。
 85対15から、70対30に変化するのと、85対30に変化するのとでは、意味がまったく違いますから。
 その実数の中身次第で、コメントを考えたいと思います。

Re:「のぞみ」シフト補遺
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/03/24 13:51:41) http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

 まずはソース開示です。
 今回のニュースをあたった時の関連記事という非常に心許ないソースで、1次情報ではないのですが...
(いちおう記事中には鉄道はJR東海、航空は国交省調べとあります)

http://www.asahi.com/edu/newsland/0313a.html

 ちなみに、東海道新幹線全体の旅客数と羽田−伊丹・関空の旅客数は少なくともこの3年は上昇傾向ですが、東阪間の鉄道旅客数だけ横這いに見えるのが気になるところです。

●「のぞみ」による需給調整
 93年改正時の博多「のぞみ」誕生時は確かにその性格はありました。
 非日常ユーザーの「のぞみ」指向と、ヘビーユーザーにとっても「飛び道具」かつラストリゾートとしての「のぞみ」という位置付けのなか、当時のエコノミーきっぷが使えないという現在以上の厳しい利用環境においても一定のシフトがあったことは確かです。
 博多「のぞみ」に雁行する新大阪「のぞみ」の設定までは、需要のコントロールが機能したともいえますが、結局は毎時1本、ピーク時は2本がせいぜいというレベルであり、2001年改正の「のぞみ」増発の結果はご存知の通りです。

 東海道新幹線における「ヘビーユーザー」の存在がどの程度か、というところに「のぞみ」にまつわる各種特例を維持したままの「のぞみ」と「ひかり」の比率の妥当なラインがあります。
 今ほど問題にならなかったころは毎時1〜2本、それも雁行でしたから実質1本だったわけです。もちろん当時も「のぞみ」から埋まるということがないところが苦しいところで、その時点でバランスのポイントとミスマッチは見えていたはずであり、「のぞみ」を許容する層が毎時1本見当に過ぎないということではないでしょうか。
 その「特異性」こそが東海道新幹線の特徴であり、それを読み切れなかったJR東海の10年間の「努力」を今後も無為に続けるのかが問われる転機であると考えます。

***
 余談ですが、昨日までの三連休、最終日の夕方下りは「のぞみ」から埋っていたそうです。
 このあたりは平日や普段の日曜日と様相を全く異にしており、その話を披露した方も単身赴任で普段日曜夕方には乗り慣れているはずなのに驚きを持って語ってました。
 そういう意味で一般的な乗客構成であればJR東海の施策も的外れでないのかもしれませんが、そういう日が年間でもごく限られた数しかないわけです。

 明けて月曜日、空席情報を見ますと、いつもながらの「ひかり×、のぞみ○」光景が続きます。
※現時点で明日の上りは204Aから148Aまで約3時間に亘り×(204A、302A、214Aの喫煙車のみ空席)ですが、「のぞみ」は全部○。下りも147Aをはじめ×は「ひかり」だけです。

東海道新幹線の目指す方向はいずこ
 投稿者---和寒氏(2003/03/24 16:15:01) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 エル・アルコン様、ソース開示ありがとうございます。とはいえ、突っこんだつもりが極めてコメントしにくいデータが出てきて、えらく当惑しているのですが。

■元データの性格
 国交省調べというのは、おそらく「航空統計年報」を指すのでしょう。これは入手がさほど困難ではなく、かつ信頼性の高いあるデータです。
 悩ましいのはJR側で、全体の旅客数はパンフレットや公式Web にも掲載されていますが、東京−大阪間を抜き出しては公開していないはずです。その意味では貴重なデータなのですが、航空と横並びにしていいかという問題もまた残ります。ひょっとして、新横浜・京都・新神戸発着の利用者の落ちがあるのではないか。そうだとすれば、シェアの推移は新幹線側に厳しく出ている可能性を指摘できます。

■このトレンドをどう評価するか
 一番悩ましいのはここで、元記事は「新幹線と航空機の双方を合わせた乗客総数はさほど変わっていない」と簡単にまとめてますが、実相はちょっと違うと思います。新幹線にしても航空にしても、90・91年あたりは特異値で、要はバブル景気絶好調時の好成績なんです。
 空前の好景気が翳って、新幹線も航空も落ちこむわけです。ここで特徴的なのは、新幹線は横這いないし漸減傾向であるのに対し、関西空港開港にシャトル便大増発と積極策を打っている航空は、需要が大きく伸張している、ということです。ほんのここ数年で倍近い伸びですから、驚嘆に値する大躍進です。
 つまり、「のぞみ」シフトという積極策を打ちながら需要が伸び悩んでいる新幹線と、大阪側2つの拠点(空港)とシャトル便を駆使して躍進中の航空、という構図が成り立つわけです。伊丹にせよ関空にせよ、空港近くに業務地域の発展が進んでいますから、その観点からも航空が優位という図式もあるでしょう。

■東海道新幹線はどの優位性を目指すのか?
 以上の状況において、東海道新幹線はいかな優位性を求めるべきなのか。航空との競合に勝ってシェア確保を目指すのか、それとも利益さえ充分にあげられればよしとするのか。
 品川新駅が開業しても当面増発がない、「のぞみ」料金は温存、といった現下流れている情報を鑑みれば、JR東海の目指す方向がなんとなく透けて見えてはこないでしょうか。ひょっとするとJR東海は、ヘビーユーザー流出を覚悟のうえで、利益率の高い普通客の確保もしくは掘り起こしを狙っているのかもしれません。まさに注目に値する戦略といえます。

補遺
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/03/24 20:20:26) http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

 ソースに付いては情けない限りです。
 ただ、ご指摘の新横浜や京都、新神戸利用者のカウントに付いては、トレンドの把握という意味ではこれら3駅の利用傾向が東京と新大阪に比べて大きく変わらない限り、入っていても入っていなくても変わらないのでは。
※85:15が72:28になったという部分が、90:10が76:24になったという感じでは。

***
 ちなみに、20時現在の明日の新幹線の東阪間の予約状況です。
 予約とキャンセルが入り混じるので、タイミングによっては異なる結果が見えたりしますが、上りは何とと言うかやはりと言うか、9時40分発(12時43分着)の150Aまで満席。今取れる「始発」は東京12時50分着の306Aです。(かろうじて始発の200Aの喫煙が空いている)で、もちろん「のぞみ」は全部○です。

 これが新神戸になると絶望的で、東京13時16分着の114Aが「始発」ですから話になりません。

 下りはまだマシで、203A、115A、101A、117A、147A,119Aだけが満席。こちらは「のぞみ」に△が9Aの禁煙にようやく出ましたが(このほか113A、143A、205A、211Aが喫煙禁煙のどちらかが×)。

 これが毎日繰り返されているんです...

Re:補遺
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/03/25 13:11:16) http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

 くどいようですが、それが当日どうなったかです。

 3月25日午前8時40分のデータですが、上りは306Aから○、「のぞみ」は6Aの禁煙が△、喫煙○、名古屋からのデータで見ると4Aと48Aも満席でした。さすがにギリギリになると最ピーク時は「のぞみ」も埋まるようですが、出足の明白な差異は御判りいただけたかと思います。

 下りは145A、117A、311A、211A、147A、119Aが満席。「のぞみ」は7Aが満席、あとは○でした。(昨夜△だった9Aは○に...)
ただ、7Aも名古屋からは○ですし、「ひかり」も名古屋以西で満席なのはお馴染み?の147Aくらいでした。

 このあたり、東海道新幹線の需要において、東京発では東名間利用のシェアがかなり高いということ。また上りの利用が際立っており、ビジネスマンが朝東京に集まるという「一極集中」をこれ以上は無い形で表現しています。途中駅利用になる上りの場合は「のぞみ」に流れる率が高いこともうかがえます。

***
 ちなみに明日は今日に輪をかけてひどいです。特に下りがひどく、7Aと9Aの禁煙が△になるなど、山陽直通を中心に早朝から満席が続出です。これは春休みや甲子園のせいもあるのかもしれませんが...

「のぞみ」対エアシャトルの分析
 投稿者---和寒氏(2003/03/25 22:19:35) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

■新幹線対航空をどう分析するか

 実数なきシェア分析は、ときにミスリードのもとになります。東海道新幹線対航空との分析にあたっても、同様のことがいえるでしょう。

  新幹線 航空 新幹線対航空
'91 2,000 450 2,450 82:18
'93 1,800 400 2,200 82:18
'96 1,900 450 2,350 80:20
'01 1,750 750 2,500 70:30

 エル・アルコン様が引用されたサイトのグラフを目の子で読めば、こんな感じでしょうか。シェアの変動はここ5年に急激に進んでいる現象、新幹線が漸減で航空が急伸、ということが読みとれます。
 してみると元記事の分析、

 東京―大阪間の新幹線と航空機の利用割合は、関西空港(大阪府泉佐野市)開港前年の93年度は「85」対「15」でした。しかし、00年度は関空分を含めると「72」対「28」になり、差が縮まっています。新幹線と航空機の双方を合わせた乗客総数はさほど変わっていないので、新幹線から航空機に乗客が流れたと考えられます。航空各社が増便や割引料金の導入を進めた成果とみられます。 

http://www.asahi.com/edu/newsland/0313a.html

は、正しいように見えても、実相を正しく押さえているとは思えません(シェア数値の相違は実数分析と目の子勘定の違いなのでひとまず措く)。

 まず、新幹線の新横浜・京都・新神戸発着の利用者がおそらく抜けているということ。航空の後背地はこれらエリアを網羅しているのですから、対等の土俵での比較が必要です。エル・アルコン様のいうとおり、航空急伸というトレンドそのものは変わらないでしょう。しかしながら、初期値が「85:15」か「90:10」か「91:9」かにより、交通機関が持つ競争力に対する印象がだいぶ異なってくる。意図しているかどうかはともかく、元記事の比較は新幹線に対してネガティブな印象を与えるものです。

 次いで「乗客総数はさほど変わっていないので新幹線から航空機に乗客が流れた」という分析はあまりにも乱暴すぎます。乗客総数はかなり伸びている、と解釈するのがこの場合妥当です。元記事の立脚点は、限られたパイを新幹線と航空が奪い合っているという見立てですが、これは明確に異なります。
 航空は、関空開港とシャトル便増強及び一部便の値下げという利便性向上施策を打ち出すことにより、新規需要を開拓したと理解するべき現象でしょう。

 そしてこの点が最も気づかれにくいのですが。
 新幹線の利用者数が無視できないほど減少していることは、データから裏打ちされています。エル・アルコン様はじめ皆様の投稿から拝察するに、「のぞみ」シフトを進める東海道新幹線に対し、ヘビーユーザーが嫌気し航空に流れているという実態も読みとれます。
 しかし、航空の増分≠新幹線の減分ではない点に注意が必要です。一部ヘビーユーザーが航空に転移しながらも、漸減にとどまっている。あるいは「のぞみ」増発などの施策によって、転移分をカバーしきれないまでも新規需要を開拓した可能性をさえ指摘できるのです。

 以上の諸点に触れずして、新幹線対航空の競争という図式を描くことは、実相からずれたネガティブ・イメージを与えることになりかねず、感心できません。

■新幹線に対する主観と客観

 東海道新幹線なかんずく「のぞみ」はどうあるべきなのか。エル・アルコン様はじめ各論者にはヘビーユーザーが航空に転移しつつある現状施策は非である、という思いがあるようにお見受けしますが、如何でしょうか。
 それは必ずしも悪いことではない、と裏側から見直すことも必要であるように思われます。割引率の高いヘビーユーザーが逃げても、定価どおりの新規普通客がつくならば、会社経営としてはそう大きな問題にはなりません。
 JR東海とて教条的に「のぞみ」シフトを推進しているとは思えません。まず「ひかり」から空席が埋まる、一部ヘビーユーザーが航空に流れている、という現状を会社幹部が知らないなど、まず考えられないことです。東海道新幹線はJR東海の基幹商品、現状を踏まえたうえで方向性を決めているはずです。「のぞみ」料金に対する公式コメントは、おそらくはどこまで価格転嫁できるかの瀬踏みであり、会社経営としても深刻なダメージを受けない範囲内でヘビーユーザー向け価格設定がされるのだと思います。

「公共」交通機関たるもの、ヘビーユーザーの為に存在すべし
 投稿者---樫通氏(2003/03/27 01:19:31)

★本件は東京・大阪の定義づけに始まり、実数のつかみ方に到るまで一筋縄に行かない事が多いため、抽象論の出る幕が非常に増えてしまいます。とはいえ抽象論や推測で解決できる部分を、これらで片付けておく事には全く意味がないわけでは無いとみなして以下コメントさせていただきます。

 次いで「乗客総数はさほど変わっていないので新幹線から航空機に乗客が流れた」という分析はあまりにも乱暴すぎます。乗客総数はかなり伸びている、と解釈するのがこの場合妥当です。元記事の立脚点は、限られたパイを新幹線と航空が奪い合っているという見立てですが、これは明確に異なります。
 航空は、関空開港とシャトル便増強及び一部便の値下げという利便性向上施策を打ち出すことにより、新規需要を開拓したと理解するべき現象でしょう。

★後段部分の新規需要開拓は、新幹線にとっては正しいと考えます。しかしながら「乗客総数がかなり伸びている」との解釈については、東阪間に関する限り理由が思いつきません。したがって開拓されたように見える需要は、
  1)関東〜岡山県・広島県東部利用客の航空機からの転移
  2)静岡県内ひかり途中停車駅〜関西のこだまからの転移
と考える方がスムーズな感をもちます。すなわち、元記事の立脚点について問題はないと考えます。

 東海道新幹線なかんずく「のぞみ」はどうあるべきなのか。エル・アルコン様はじめ各論者にはヘビーユーザーが航空に転移しつつある現状施策は非である、という思いがあるようにお見受けしますが、如何でしょうか。
 それは必ずしも悪いことではない、と裏側から見直すことも必要であるように思われます。割引率の高いヘビーユーザーが逃げても、定価どおりの新規普通客がつくならば、会社経営としてはそう大きな問題にはなりません。

★営利企業存続自体の重要性は論をまたないところではありますし、サービスと採算性との均衡点の探り合いが交通論の醍醐味ですので、小生が掲げた題名のように言い切ってしまうことの問題は承知します。しかしながら、いやしくも「公共」の名を掲げるのであれば、1人でも多くのヘビーユーザーを獲得できる体制を整える事を使命として欲しいと願います。新規普通客の満足だけであれば自家用交通手段の整備により軸足が置かれるべきですし、ある程度のヘビーユーザーが集積する軸が存在するからこそ公共交通機関の必要性があると考えます。

★上記の「軸」の太さによって最適な公共交通機関が当然異なるわけであり、航空機程度の太さで充分な領域に新幹線が殴り込み、一方で新幹線が依然可能性を持て余している東阪間に航空機が進出する事によって、結果的に航空機程度で適切なローカル便にしわが寄せられているという現状を鑑みるに、東海道における航空機転移は二者択一であれば「非」と言えると思います。

補足します
 投稿者---和寒氏(2003/03/27 08:45:39) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 樫通様、コメントありがとうございます。一部論旨を明らかにしておくため、補足しておきます。

 後段部分の新規需要開拓は、新幹線にとっては正しいと考えます。しかしながら「乗客総数がかなり伸びている」との解釈については、東阪間に関する限り理由が思いつきません。

→これは拙論「『のぞみ』シフトを検証する」図1の典型事例だと思います。交通機関の利便性が向上して、利用者便益が発生して、全体として需要が伸張すると。
 元記事の問題点は、新幹線に対しても航空に対しても、上の事象を過小に評価しているところにあります。全体のパイ(例えば京都−東京間利用者)を扱わずシェアを出しているのは新幹線に対してネガティブ、全体の需要が伸張しているとみなしていないのは航空の利便性向上に対してネガティブ、どちらに対しても公平な記述とはいえません。

 営利企業存続自体の重要性は論をまたないところではありますし、サービスと採算性との均衡点の探り合いが交通論の醍醐味・・・・・・ある程度のヘビーユーザーが集積する軸が存在するからこそ公共交通機関の必要性があると考えます。

→「のぞみ」シフトそのものは所要時間短縮につながりますから、歓迎しない利用者はいないでしょう。問題は運賃料金の設定にあるのです。どこまでサービスの対価を求めることができるのか。
 実はこの問題は「定期券割引」と相似形なんです。利用者にとってはヘビーユーザーに対する割引があってしかるべき、鉄道会社にとっては最繁忙時間帯に割引利用者が集中するのは矛盾の極みでぜひ価格転嫁したい、という立場の違いによる相克です。
 そしてまったく異なる状況は、通勤電車の場合は代替手段が事実上ないこと、新幹線には航空という代替手段があることです。

 上記の「軸」の太さによって最適な公共交通機関が当然異なるわけであり、航空機程度の太さで充分な領域に新幹線が殴り込み、一方で新幹線が依然可能性を持て余している東阪間に航空機が進出する事によって、結果的に航空機程度で適切なローカル便にしわが寄せられているという現状を鑑みるに、東海道における航空機転移は二者択一であれば「非」と言えると思います。

→需給調整規制が撤廃された今日では、商売になるところに経営資源が集中するという現象は止められないでしょう。しかし、航空にせよ新幹線にせよ、本来はドル箱たる東阪間での叩きあいは、なんらかの形でローカル区間に皺が寄ることを意味します。それがいいことなのかどうか、考える余地がありそうです。

データからの推測
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/03/29 17:17:56) http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

●「首都圏」対「関西圏」の数字は?

 航空の場合は羽田−伊丹・関空という選択肢しか事実上ないので、この2大都市圏の流動=この区間の利用と見なせます。一方で鉄道の場合、この手の数字が横浜、神戸をはじめとする近郊都市をカバーしているのかということはこれまでも言われてきた話です。ただ、鉄道の場合、どういう形でデータを集計しているかが問題であり、推測するに都区内−大阪市内の乗車券類の数字で把握していると思われます。
 つまり、元記事の東海道新幹線利用総数は新幹線改札の通過人員もしくは特急券類の発券数で把握し、東京−大阪間の鉄道利用は乗車券類の発券数でしょう。

 この時、回数券(ビジネスきっぷ)ユーザーの行動形態としては、企業が常備している券種が概ね都区内−大阪市内であることから(神戸に本支店がある場合は逆に神戸市内発着を常備する)、ビジネスきっぷの設定がある横浜市内であっても都区内発着を支給されて内方乗車するケースは多いですし、千葉や埼玉、三多摩エリアであっても都区内発着+乗り越しもしくは定期券となるはずです。これは個札においても広く使われる、というか駅によってはその方が安いと案内するケースも多い話であり、都区内ベースの数字に近郊発着は相当数含まれると見て良いのではないでしょうか。

 元記事の数字で明らかに漏れているのは、ビジネスきっぷ(横浜市内のように6券片ではなく25券片セットの元々の設定グループ)の設定がある神戸市内、西明石、和歌山と、観光需要が高く、企画券や団体設定が多い京都市内の数字であり、それがどのくらいのシェアを占めるかによっては和寒さんご指摘の、新幹線の競争力を過小評価ということは確かに否定できません。

●元記事データから見る分析

 それはさて置き元記事の数字を見て気付くことは、90年代前半〜中盤は新幹線利用総数と東阪間利用数の間には若干東阪間が爬行するとはいえ相関性が認められたということです。しかし、ここ数年の傾向を見るとこのあと爬行しながらキャッチアップするかどうかではありますが、総数の上昇に対して東阪間が横這いという乖離が目に付きます。このあたりは、東海道新幹線のユーザーの体感的な感想として耳にする、「指定券が取りづらい」「案外途中で入れ替わる」という一見背反する事象を裏打ちしている可能性があります。

 つまり、「のぞみ」シフトによる「ひかり」座席提供数の減少はあるとはいえ、「のぞみ」にシフトした乗客を考えるとここまで指定券獲得競争が激しくなるというのは解せない。それと乗ってみると名古屋での入れ替わりなど途中の出入りが以前に比べて目立つということ。これは名古屋に代表される途中駅利用者が増加しているためであり、指定券獲得競争もそれの影響が大きい、ということで、ゆえに東阪間利用は横這いだが、利用総数は伸びている、つまり途中利用の占めるシェアが増え、それが指定券獲得競争を押し上げているという推測になります。

●利用実態は

 名古屋等の中間利用の増加、また、ビジネスニーズにおける関西発への明らかな偏重(朝の新幹線は上りが圧倒的に混んでいる)を見ると、産業界における「東京一極集中」を色濃く反映しているといえます。
 つまり、大阪の本社機能喪失による大阪→東京本社出張機会の増加。また名古屋のような母店機能を持つ支社・支店の縮小による東京本社のコントロール増大、静岡あたりでは支店自体の縮小・撤退による東京本社の所管入りといった事態であり、このあたりが下りの流動が案外大阪まで届かない原因かと思います。

 なお、本社から人を迎える場合は無理に朝イチに設定する必要も無く、本社側の都合に合わせますが、本社に集まる場合は支店・支社の都合は往々にして無視されます。取引先や官公庁は言うに及ばずで、これも上りの混雑に拍車を掛けています。
 そして通勤圏が広い首都圏は早朝発の新幹線に乗れないケースも多く、無理に先方に早朝着であれば航空機の方が使い勝手が良いです。また都心部のオフィス展開が新宿など比較的新幹線から遠いエリアになってきていることもあり、「朝イチ」とはいっても9時では「のぞみ」でも絶対に間に合わず、結局きりが良く「ひかり」でも間に合う10時に、という話も多く、需要は多いが何がなんでも「のぞみ」と言い切れない一因といえます。

●もう一つの見方

 利用総数と東阪間利用の乖離の反面、利用総数と航空機の利用には相関性が認められます。航空機の利用急伸について、全体的な利用増加の傾向の現われという見方も可能かもしれません。つまり、デフレ景気とは言っても、どうやら低いながらも景気の山が合ったようなことを政府が言っており、そのトレンドが利用総数と航空機利用に出たまでということです。
 これはもしその仮定が正しければ案外由々しき問題で、経済動向によって左右されるビジネスユースの増減が利用にストレートに反映されるのが、東阪間ではなく東名・名阪間程度にまで短縮されてしまったということです。

 新規需要の開拓という見立てについてはUSJ効果などもあり首肯できる面も多いのですが、高速バスのように運賃や時間といった特徴的なアドバンテージが無いだけに、それが航空だけが急伸する主因とは言い難く、全体のトレンドと唯一乖離した東阪間鉄道利用者の傾向に、新規ではなくシフト発生と見たいところです。
 なお、新規需要の掘り起こし、という見立てが正鵠であるとした場合、過去に「検証」でも議論になりましたが、夜行高速バスが相当な数の新規需要を創出したが、鉄道はその新規需要を取り込むどころか既存のシェアまで失ったという故事を思い出します。航空機に乗るというのが目的でない限り、移動手段は選択し得る話であり、鉄道がシェア確保出来ないということは余程の無為無策といえるからです。

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2004.11.14 Update


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