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【検証:近未来交通地図】Special027-2
ゆいレール4つの視点
(2003/11/12 09:12:40)

 本投稿は、【検証:】掲示板でもお馴染みの、和寒様より当BBSに御投稿頂きました文章を、読みやすく構成させて頂いたものです(一部文面を編集しております)。
 また、文中の写真は和寒様に所有権帰属となります

下記内容は予告なしに変更することがありますので、予め御了承下さい。
当サイトの全文、または一部の無断転載および再配布を禁じます。

牧志駅

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 既に管理人様からも備忘録がアップされているところですが、私も拙「志学館」に下記の一文をアップしました。どうか御笑覧のうえ、また皆様の参考の一助となれば幸いです。

以久科鉄道志学館 軌道系交通の最先端〜〜ゆいレール
http://www.geocities.jp/exyna_institute/ue/00.html

2003・11ゆいレール&那覇都市交通調査オフ備忘録 ../report/048.html

その1 「街のランドマーク」

■なめらかな外観
 ゆいレールの魅力は、なんといってもなめらかな外観にある。特に前面形状のやわらかさは秀逸で、見る者の目をなごませる安心感がある。

 例えば、鋭角的なデザインを多用して力強さや近代性をイメージさせる多摩モノレールの方向性と比べ、ゆいレールのあたたかみは好対照というべきであろう。両者のデザインに優劣があるわけではないが、いわゆるポスト・モダン、近代性のさらに先にあるものを追求したゆいレールのデザインは、むしろ野心的と評するに値し、それゆえかえって斬新さが伴っている。敢えてはやりの単語を使うならば、サステナブル<持続可能で安定的>なデザインといえよう。

那覇空港−赤嶺間にて(和寒様御提供)
那覇空港−赤嶺間にて
柴崎体育館にて(和寒様御提供)
柴崎体育館にて

 ちなみに、参考文献によれば、車両デザインのキーワードは「優・涼・景・清・軽」の5つだという。

優:強い日差しに映える色彩を用い、乗客に対する明快なサイン性(情報伝達を持たせるデザイン)
涼:亜熱帯の日差しを緩和し、涼しさをつくりだすデザイン
景:モノレール特有なパノラミックにうつろう市内の景観を取り入れ、室内に開放感をつくりだすデザイン
清:雨の多い土地柄ならではの清掃性を配慮したシンプルでクリーンなデザイン
軽:太陽の日差しがつくりだす陰影や色彩により圧迫感や威圧感を軽減するスマートなデザイン

モノレール第105号(平成15(2003)年10月)『沖縄都市モノレール開業』より
「沖縄都市モノレールと1000形車両の概要」(沖縄都市モノレール株式会社)

沖縄みやげの「シーサー・キティちゃん」(和寒様御提供)  沖縄といえばあらゆる場所に「シーサー」を置いて鎮守となす風習があり、ゆいレールにおいてもその例外ではない。各駅に鎮座しているシーサーにはやさしげな安心感がある。ここで発想を転換して、シーサーを車両にもあしらえないものだろうか。できればFRPの隈取りをつけたいところ、少なくとも塗色でシーサーを表現したい。例えば、右の写真のように・・・・・・。この造形ではシーサーというよりもむしろブタさんではないか、という説もないわけではないが、まあ細かなことは気にしないでおいて頂ければ幸いである。

奥武山公園−壺川間にて(和寒様御提供)

沖縄みやげの「シーサー・キティちゃん」

■まちのランドマーク
 モノレールの特徴は(特殊な例外区間を除き)必ず高架軌道となり、良くも悪くも街並を睥睨する交通機関になる点にある。そのため、軌道や車両が不細工なつくりだと、街の風景を破壊することにもつながりかねない。その点、ゆいレールの造作は街によく馴染み、融けこんでいる。

儀保−首里間にて(和寒様御提供)

奥武山公園−壺川間にて

 下の写真は首里城から見晴らしたものだが、急勾配を上り下りするゆいレールは、街の風景のほどよいアクセントになっている。この写真では、背後の鉄塔の方がうるさいほどだ。

 高高架区間もあることから、ゆいレールから見渡す街の風景も実に佳い。特に首里から急勾配で下っていく箇所は、遠く海まで遠望でき、思わず溜息が出るような絶景である。

儀保−首里間にて

その2 「軌道系交通空白地帯でのインパクト」

■バスから一足飛びに遂げた進化
 沖縄の公共交通機関といえば、今まではバスしかなかった。このバスが途方もない存在で、時代がかった老朽車、奇妙奇天烈な改造車がゴロゴロしている。特に目についたのは、中扉・後扉を埋め扉前には椅子を置いた改造車である。これは前扉のみで客扱いすることに伴う改造と見受けられ、即ち沖縄のバスは中長距離便が多く、拠点停留所以外では乗降が少ないとが理解できるのである。
 バス路線がまたわかりにくい。4社併存というだけでもよそ者は困惑するし、系統設定はごく複雑、しかも行先表示が盛り沢山で内容をすぐには把握しにくい。「食わず嫌い」ではいけないと知りながら、ついに利用する気にはなれなかった。

那覇バスターミナルから旭橋駅を臨む(和寒様御提供)

那覇バスターミナルから旭橋駅を臨む

 その点、ゆいレールは大きな進化を遂げている。軌道系の特徴として系統はシンプルでわかりやすい。高速性はバスに倍するものがあり、特に加減速性能は素晴らしい。加速はまさにグイグイ行く感じで、出発からわずか20秒で60km/hに達する快速を誇る。
 しかし、この特徴を裏返せば欠点にもなる。シンプルな系統、すぐれた高速性、いずれも「アクセスしやすさ」とは背反するのである。また、運賃も割高な水準だ。
 だから、ゆいレールが利用者にどう受け容れられるか、事前の判断に難しさが伴うことは否めない。特に担当者は重苦しい不安に苛まれたのではなかろうか。

■蓋を開ければ商売繁盛
 これら不安は、すべて杞憂だったとしてもよいだろう。8月の開業以来、ゆいレールは概ね大入り満員が続いており、順調すぎるほど順調に利用者数を稼いでいる。筆者が最初に乗ったのは金曜の深夜、那覇空港23時過ぎの出発で、さすがにこの時間では飛行機から乗り継いでくる利用者は少数だった。しかし、途中駅からの乗車がちらほらとあり、中心部では立客まで出たのには驚いた。宿泊先最寄りの美栄橋で降りれば、あたりの雰囲気はまごうことなく「夜の街」。ハロウインの仮装をした若者を多数見かけるなど、この時間でも需要は相応にあるものと見受けた。
 次いで乗った日は三連休の中日にあたり、また首里城祭など多くのイベントが催されている特需日であったかもしれない。それにしても需要は底堅くあると見てよく、那覇空港をガラガラで出発した列車でも、途中駅からの利用者が累積し、中心部ではラッシュなみの混雑を呈していた。写真で見ると混雑率換算で100%そこそこというところだが、実乗している際にはかなり混んでいるように感じた。通勤客はともかくとして、一般客は詰めこみをきらうから、混雑の許容限度はまずこれくらいだろうか。

車内(和寒様御提供)車内(和寒様御提供)

 この日の夕刻ピーク時には積み残しも見られた。季節・曜日・時間による波動は大きいにせよ、あるいはイベント開催に影響を受ける面はあるにせよ、人口密度が高い住宅地と那覇市中心部を結ぶロケーションは絶妙なほど手堅いと評するべきであろう。導入空間がないため国際通りこそはずれているものの、現在のルートでも充分に需要を押さえている。近年の軌道系交通では稀な、大成功事例といえる。

 惜しまれるのはシートの造作であろう。2両編成で混雑に対応するため、ロングシートの採用はやむをえない。堅めのクッションも、乗車時間が短いことを考えれば、まず妥当ではある。しかしながら、背もたれが低く、しかも連続していないのは如何なものか。特に「谷間」にはまってしまうと、背中を支える背もたれがなく、居心地悪いことこのうえないのである。

その3 「最先端をいくバリアフリー対策」

■まずは実見から
 いわゆる交通バリアフリー法により、軌道系交通機関ではエレベーター等バリアフリー対策が義務づけられた。同法以前に開業した路線では、充分な空間を確保できないため、バリアフリー対策を採ろうにもままならないところが少なからずある。ここで、新規開業路線ではその手のいいわけは通用しない。さてさて、ゆいレールの場合はどうだろうか。

 筆者が乗車した列車には、偶然ながら車椅子での利用者が2名同乗しており、乗降の際にはホームからスロープがせり上がり、特段の介助なしで自力移動しておられた。同種の設備は、例えば多摩モノレールなどに先行事例があるものの、実際に使われているところを見ると、やはり訴求力がある。ちなみに、この日最大の障害はどうやら「混雑」だったらしく、狭く混んでいるホームを移動しエレベーターに辿り着くまで時間をとられていたようだ。

首里にて
首里にて(和寒様御提供)
市立病院にて(和寒様御提供)
市立病院前にて

■さりげない円み
 筆者が一番感心したバリアフリー対策は上の写真である。
 誘導ブロックといえばギコシャコ直角に折れるものとの先入観があったが、ゆいレールはそんな常識を軽々と打破してくれた。円弧状の誘導ブロック導入は全国的にも珍しく、軌道系交通機関ではおそらく初めてではないか。汎用品とは異なる特殊材料を使うため、材料調達にも施工にもコストを要する措置だが、それゆえバリアフリー対策にかける強い意気ごみを感じとれる。
 ゆいレールは円く、そしてやさしい。

■史上初の病院直結
 もう一つ驚いたのは、市民病院前駅の改札を出ると、ほぼ同じレベルの通路を移動するだけで、市民病院の1階受付に行けるということだった。
 モノレールのみならず、あらゆる軌道系交通機関を通じて、病院直結というのは稀有な事例であろう。バスであれば病院の車寄せに入りこむ芸当もできようが、軌道系交通機関では構造設計段階からの配慮が要る。ゆいレールは、それを成し遂げた。

市立病院にて(和寒様御提供)
市立病院前にて
市立病院にて(和寒様御提供)
市立病院前の案内図

 これは斜面上に立地する病院だからこそできたことで、例えば改札階が病棟階にじかにつながるのでは具合が悪いだろうから、単純な応用は難しい。しかしながら、今後の参考に資する先駆的な事例であることは間違いない。

Re:史上初の病院直結
 投稿者---もちもち氏(2003/11/28 12:48:32)

 和寒様
 すばらしいレポートありがとうございました。手に取るようにゆいレールが分かりました。
 ひとつだけ気になったのですが、

■史上初の病院直結
 もう一つ驚いたのは、市民病院前駅の改札を出ると、ほぼ同じレベルの通路を移動するだけで、市民病院の1階受付に行けるということだった。

 史上初との事ですが、もしかしたら香春口三萩野駅/北九州中央病院の方が先の完成だったと思うのですが・・・?
 香春口三萩野駅は、上下エスカレータ・エレベータ完備、コンコースからは病院へフラットな連絡橋があります。

御教示ありがとうございました
 投稿者---和寒氏(2003/12/10 12:16:07) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 もちもち様、御教示頂きましてありがとうございます。
 このところ多忙多忙していて、遅レスになりまして申し訳ありません。

 私も北九州モノには乗車した経験がありますが(小倉駅直結の直前でした)、迂闊なことに、香春口三萩野駅の構造には気づきませんでした。都市高速道路と一体化した構造には驚いた一方で、こんな見落としがあるとは、当時は見る目がなかったわけですね。
 ともあれ、原文のままでは不正確なので、修正しておくことにします。
 重ね重ねながら、御教示頂きましてありがとうございました。

首里にて(和寒様御提供) その4 「発展を抑えかねない容量不足」

■どこまで伸びるかゆいレール
 まずは右の写真を御覧頂きたい。

首里にて

 過走余裕の引上線であるならば、軌道桁に曲率がつくことはあっても、複線の軌道中心は直線状でなければおかしい。ところが、首里北方のそれは急なカントがついたカーブになっているのだから、実にあやしいといわざるをえない。おそらくこれは、左手の道路上を延伸する意図を蔵した構造と見て、まず間違いなかろう。
 延伸計画を持つことじたいはいい。既開業区間が盛況であるように、相応数の利用者がつくであろう。そもそも、路線延伸せずとも需要が定着し、さらに伸びていく可能性をも指摘できる。ほんとうに需要が伸びるならば慶賀すべきところだが、ここでは既開業区間の容量が追いつかない懸念を敢えて呈しておきたい。

那覇空港にて(和寒様御提供)  ゆいレールは現在2両編成、各駅の構造からして3両編成までの増結は容易にできそうだが(ただしホーム可動柵の増設が必要)、4両編成以上になると厳しそうだ。
 軌道系交通機関の特徴を、少ない労働力で多数の利用者を運ぶ点に見出すならば、最大でも3両編成という輸送単位はいかにも小さいといわなければなるまい。ホーム長を4両編成対応にしておけば、2両編成を2本つなげる芸当ができたのだから、惜しまれてならない。

那覇空港にて

 現状では朝ラッシュ時でも最短6分間隔での運行と、増発の余地はまだあるとしても、輸送力が小さい列車の増発はコスト増要因でもあり、あまり面白くない。また、左の写真のとおり、那覇空港にはX分岐が介在しているから、運行間隔が制約されることも忘れてはならないだろう。
 大きく成長する可能性を秘めているというのに、容量不足が成長を抑え阻害しかねない。ゆいレールの弱点を指摘するならば、まさにこの点につきるだろう。

■容量不足は苦難の道の証
 しかしながら、不足気味の容量しか供給できていないのには、なんらかの理由があると考えるべきであろう。参考文献には次の記述があり、需要予測の変遷という観点ではたいへん興味深い。

・・・・・・(前略)
 昭和56(1981)年度実施調査による計画は、路線を那覇空港より首里地区を経て西原町東部に至る、延長約15.4km、18駅とするものであった。このうち、赤嶺より汀良に至る延長約11.1km、14駅を第1期施工区間とした。
 昭和57(1982)年「沖縄都市モノレール株式会社」が設立され、沖縄県に対し、このルートを施工区間とする特許申請書が提出されたが、以下の課題が未解決であるとして、特許取得までには至らなかった。
 1)資金調達の目途をつけること。(金融機関との間に基本合意が出来ていない)
 2)収支見込の再検討。(赤字になった場合に県、市に負担能力があるか)
 3)バス路線の再編について、バス企業との間に基本合意を得ること。
・・・・・・(中略)・・・・・・

 沖縄都市モノレールは、当初の特許申請から特許取得までに14ヶ年という歳月を要した。この期間は、国、県、市、モノレール会社、地元経済界、地元住民がこのプロジェクトを「収支償い得るプロジェクト」とするための苦悩の年月であったと言えなくもない。
 まず、利用者の推計について見よう。
 当初の認可申請時では、開業年の利用者数を7万3千人/日としたが、昭和58(1983)年には、これを6万7千人/日へと下方修正し、さらに平成4(1992)年に、この年までに実施したパーソントリップ調査を基に推計し直し、4万人/日に設定した。
 平成8(1996)年3月の特許の再申請に当たっては、これを3万5千人/日としたが、平成15(2003)年、開業に向けての運賃認可申請に当たっては、3万1千人/日と再度下方修正している。
 収支見通しとしては、3万1千人/日の需要があれば、資金収支が開業後11年で単年度黒字となり、累積債務の解消が27年目になるとの予測である。
 開業後20日間程度の利用客の実績は、幸いにも、平均4万7千人/日で推移している。これは、ものめずらしさや夏休みという特殊事情の下での現象であり、通常状態を推し量るには早計に過ぎるだろうが、喜ばしい限りである。
(後略)・・・・・・

モノレール第105号(平成15(2003)年10月)『沖縄都市モノレール開業』より「沖縄都市モノレールの開業と今後」(三由武英)
引用者注:原典には年号に西暦表示がないため、これを補った。また、機種依存文字は変換した。

 各時点での需要予測結果が公刊・公表されているという意味において貴重な資料であると同時に、小さな輸送単位しか供給されていない理由が透けて見えてくる資料でもある。収支償わせるためには最大でも3両編成しか運行できず、しかしそれでは容量不足に陥るという、二律背反の命題がここには示されている。
 ところで、3万1千人/日という需要予測を一日あたり列車数(202本)で割り戻してみると、約150人となることに注意しなければならない。この150人とは、一列車あたり座席定員65人をはるかに上回り、立席を含む列車定員165人に匹敵する。途中駅での入れ替わりがある一方、需要に波動があることを考慮すれば、相当数の列車が定員一杯ないしはそれ以上の混雑になると、最初から予想されているわけだ。
 即ちこれは、恒常的な混雑を前提しなければ、軌道系交通機関の経営は成立しないことの証左でもある。積み残しは確かに「瞬間最大風速」かもしれないが、それほどの混雑がなければ経営が成立しないというならば、むしろその環境または構造にこそ検証の目を向けなければならないだろう。まして、インフラ補助がなされており、ゆいレールは車両など運行にかかる部分の初期投資しかしていないのだから。

<了>

ゆいレール4つの視点−−その4補遺「開業半年後の状況」
 投稿者---和寒氏(2004/02/13 20:06:24) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

沖縄モノレール 利用客減歯止めに懸命… 開業から半年迎える

 那覇空港と那覇市・首里地区を結ぶ「沖縄都市モノレール」(ゆいレール)は10日、昨年8月の開業から半年を迎えた。沖縄で戦後初めて走る「電車」という物珍しさも手伝って開業当初は好調な滑り出しだったが、最近では利用客の減少に歯止めがかからない。
 同社は沖縄県職員らに利用を訴えたり役員自らビラを配るなど対策に躍起だが、バスとの乗り継ぎの悪さなど解決すべき課題も多く道は平坦ではない。
 開業から半年間の利用客は、1日平均で約3万2千人。需要予測の3万1千人を辛うじて上回ったものの、月別では既に昨年11月から3万人を割り込み、今年1月には最低の2万6千人まで減少した。
 県が利用客を対象に実施したアンケート(約5千人回答)によると、駅までの交通手段は70%が「徒歩」と回答し、当初から指摘されてきたバスなどとの乗り継ぎの悪さが浮き彫りになった。モノレールが「沖縄県民の足」として定着するかどうかは、最終目的地とのスムーズな移動手段の確保が鍵を握りそうだ。

2004/02/13付交通新聞記事より(全文引用)

■コメント
 この記事の字面だけを追うと「ゆいレールはやくも息切れか」という印象を持つ。開業直後は確かに好調であったが、いわゆる「御祝儀相場」という要素があることもまた否定できず、「もの珍しさ」から「試し乗り」の利用者を集めていた面もあっただろう。
 だから、利用者の動向には今後もなお注目し続ける必要がある。なにしろ、軌道系交通がまったく空白だった地域にモノレールが導入されているのだから、従来の知見では計りきれない動きが起こる可能性もある。その一方、利用者数の落ちこみは単なる季節変動にすぎない面もある。業界紙たる交通新聞にその観点が欠けているとは考えにくく、読者の印象をネガティブな方向にリードするという意味において些か問題含みの記事である。
 もう一点論評するならば、ゆいレールは主として那覇市の内々交通を分担している交通機関であるから、バスとの接続をよくしたところで需要喚起につながるとは考えにくい。ゆいレールを軸とする形でのバス路線網再編が考慮されていない以上(その背景には再編を考慮する必要が乏しいということもある)、引用記事の提言は実効性の伴うものかどうか、疑問が残る。

 もともと12月及び1月は正月休みをはさむため、ただでさえ需要が減る。しかも沖縄の冬は、参考文献に見られるとおり観光のオフ・シーズンである。従って、12〜1月が需要の底になるのは当然の現象にすぎない。

平成12年2月4日 琉球銀行調査部 特集:県内観光の動向について
http://www.ryugin.co.jp/chosa/repo-to/pdf/365kankou.pdf

 ただしこれは常識的な見方にすぎず、ゆいレールの真需は1月実績程度の規模しかない、という可能性も実はある。ゆいレールがどのように受け容れられているか、評価を定めるにはまだ日が浅かろう。最初の観光シーズンの3月及び新入生が登場する4月という、年度がわりの時期が正念場となる。年度が明けてなお利用者数が低迷するならば、所詮それがゆいレールの実力といわざるをえない。逆に利用者数が反転上昇するならば、ゆいレールの将来は安泰であろう。
 いずれにしても、この先数ヶ月のゆいレールは要注目である。

利用状況から見えるスペック不足懸念
 投稿者---とも氏(2003/11/10 19:39:58) http://www.koutsu-machi.com/

牧志駅

 まずは事実関係を

沖縄総合事務局南部国道事務所HP ゆいレールの利用状況
http://www.dc.ogb.go.jp/nankoku/topix/mono_kouka/jyoukyou.html

 そして以前こちらで議論に上った首里城祭当日の積み残し(管理人様撮影)。

 この写真の撮影日(11/2)と利用状況資料にあるグラフを重ねると実に興味深いことがわかります。
 この積み残しが出た日の利用者数は予測をやや上回る程度。つまりはこの状況がいくら特異日とはいえ、数字的に特別な日ではないのです。

 確かに一時的な事象です。しかもおそらく1日の中でも瞬間風速でしょう。
 しかしイベントがあった1日にこれだけの状況が生じていながら、数字を見ればさほどでもない。むしろ疑問符が付く。
 これはスペック不足を如実に表しているのかもしれません。

 ゆいレールは今後さらに乗客が増える可能性が極めて高いことは十分考えられます。11月〜3月は需要の底であり、沖縄の観光シーズンではない上に沿線開発もこれからです。
 おもろまち駅前に進出するDFS社からもいろいろ言われていましたが、増結や増強も考えなくてはならないでしょう。

 しかし、こういう見方もまた事実としてあります。

モノレール半年 利用回復へバス接続急げ(02/10沖縄タイムス)http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20040210.html#no_2

 確かに問題は多い。採算性に黄色信号とまで言われ、乗継が少ないなどの問題もいわれています。でもこれほどまでに使われている。
 実際乗って見ると、とても失敗とは思えない。それどころか成功例という評価すらしたくなる。
 ゆいレールは我々がとらわれすぎているさまざまな視点に対し、疑問を呈しているのかもしれません。

 思うがままの雑感です。それでは

その4さらに補遺
 投稿者---和寒氏(2004/02/26 10:00:12) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 さて、私はゆいレールの需要予測に重要な情報バイアスがかかっている可能性に気づきました。これはひょっとするとゆいレール独自の事情ではなく、ひょっとすると他路線での需要予測でも同じことがいえるかもしれません。
 では、どこにバイアスがあるか。
 参考文献から判断するに、利用者3.1万人/日という予測は運賃申請時のものだと考えられます。運賃申請時には、乗車券の売上→運賃収入という流れで会社の収入が考量されるので、この需要予測の基礎は「乗車券売上」になっている点に留意する必要があります。
 ここで、普通乗車券の利用者は一対一で把握されるからよいとして、定期乗車券の扱いがバイアスのもとになります。定期乗車券の利用者数は、月30日往復利用とカウントされるのが一般的なようです(私が知る限り複数の鉄道会社でそのように扱っている)。なぜこのように考えるかは定かでありません。統計上・集計上の決めごとにすぎないともいえますし、収入をはかるうえで賃率を固定したいということなのかもしれません。とにかく、定期乗車券利用者は月30日往復利用とカウントされている。
 しかし実際の定期乗車券は、さほどの頻度で利用されているわけではありません。確度の高い数字の所在は存じませんが、どうやら月20〜23日程度の利用にとどまるらしいそうです。週休二日制の職場への通勤を考えれば、まずまずこの程度と考えるのが妥当でしょうか。
 月30日利用でカウントしているのに実際には月20〜23日程度の利用であるならば、「収入計算上の利用者数」はともかくとして、「見かけの利用者数」が減るということは容易に理解されうるところでしょう。ここでゆいレールでの仮定として、月20日利用(一月は正月休みが長いことを考慮)、定期券利用者1.2万人とするならば、実際の利用者数は0.4万人ほど目減りすることになります。
 各種報道で伝えられる利用者数は、まぎれもなく実際の利用者数のはずです。というよりも、乗車券売上の集計には相当な時間がかかるので速報にたえられず、速報するならば実際に数えた利用者数即ち改札を通過した人数に限られると考えられます。

 以上まで記したとおり、需要予測の利用者数と速報される実際の利用者数との間には、最初からギャップがあり、実際の利用者数は常に下方値をとると考えられます。
 マスメディアといえどもそのような背景は知らないでしょうが、ゆいレールの利用者数をとらえて「実績が予測を下回った」とするのは、ネガティブな印象をリードするという意味においてたいへん問題があります。実際には「下回った」とされた一月においても予測と実績はほぼ同値であると考えられるからです。しかも一月は年間通じても需要の底となる季節であることを考慮すれば、大健闘といってもいい(※ただし利用が長期継続的に低迷する可能性はあるのでここ数ヶ月の動向には注目が必要)。
 一般紙のトーンはともかく、業界紙たる交通新聞でさえ、そのあたりの分析がないのは困ったものです。これには、新規プロジェクトにはケチをつけておけば安全という妙な横並び意識が垣間見えてもおり、マスメディアなる書き手の本質がうかがえる典型的事象ともいえるでしょう。

その4補遺のさらにフォロー
 投稿者---和寒氏(2004/03/05 13:22:11) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

都市モノレール2月も予測割れ/4カ月連続(03/01沖縄タイムス)http://www.okinawatimes.co.jp/day/200403011700.html#bottom

 本文中の記述で「1日当たりでは31,314人。需要予測に36人届いていない」にはあきれて言葉もない。あまりにも顕微鏡的な「重箱隅突つき」でネガティブな印象をリードする姿勢には、問題があると評さざるをえない。まして、先に挙げた情報バイアスの存在があるのだから。
 とはいえ、この傾向が今月も続くようであれば、ゆいレールの将来を楽観視することはできない。かくして、変わらず要注目の日々が続く。

Re:その4補遺のさらにフォロー
 投稿者---TAKA氏(2004/04/04 23:14:06)

 和寒様今日はTAKAです。偶々見つけた記事がありましたのでお目汚しかとは思いますが、“要注意の日々が続く”とコメントされているので、取りあえずご参考までに・・・

<ゆいレール>1日平均3万1076人(04/03琉球新報)http://www.ryukyushimpo.co.jp/news01/2004/2004_04/040403o.html

 まあ私は沖縄に行った事もないのでゆいレールの実際の姿は見た事無いですし、そんなに興味ないので此処での皆さんの書き込みが殆どの情報源で上記記事も偶々見つけたのですが、まずは毎月毎に地方紙で有れ利用客数の経過が新聞記事に掲載されるというのも驚きですね(東京ではまず無いでしょう)。それだけ沖縄では注目されているのでしょうが・・・。
 それに確かに「悲観的」とも取れる記事内容ではありますが、実際は7ヶ月経った段階での需要予測との誤差の数字が1%程度と言う事はそんなに深刻な問題なのか?という感じがします。確かに今の段階の平均は8月の開業ご祝儀客&観光シーズンの数字が平均を釣り上げているのでしょうが、最低の1月でも年間平均需要予測の約85%ですし観光需要等に大きく左右されるであろう沖縄の状況(これは推測ですが)を考えれば、冬の時期はオフシーズンでしょうから其処から考えれば順調なのではないでしょうか?(ましてや那覇空港と市街地・首里を結ぶ路線と言う事は観光需要も大きくあるという事でしょうし・・・)

 そう考えればゆいレールは順調な運営が続いているのでは有りませんでしょうか?2両編成という輸送力・ご指摘の様な「予想輸送量を1本当たりで割ると立席定員に近い(何時も100%の乗車率を想定)」という事から考えると、想定輸送量を少し割る程度の1日当たりの輸送量というのは順調に運営されているという証左で有ろうと感じますが如何でしょうか?
 只04年度の1日当たり平均乗客を約2%増の32,258人/日に設定したのが、ちょっと強気かな?と言う気がしますが・・・又「(戦後)沖縄初の軌道系輸送機関」に注目し、その輸送人員に一喜一憂するのも良いですが、周囲も少し長い目で見て行くと言う事も必要ではないかと思います。04年度の強気の輸送予測が当たれば問題ないのでしょうが・・・・。

2004の強気の予想は当然
 投稿者---とも氏(2004/04/05 20:45:30)

 手短に

●強気の予想  強気の予想は当然です。

 過去ログにもありますし、報道もされてますが、2005年1月1日に空港外免税店「DFS GALLERIA OKINAWA」がおもろまち駅前にオープン。これだけでも2003年度冬季と比べたら集客力は大きい。これ目当ての観光客すら期待できる施設です。ブランドも主要ブランドを中心に14店が入店。しかもその面積はグアムにあるDFSを上回る規模であり、これと既に豊見城市で開業している「あしびなー」(グッチなどが入店)を組み合わせれば観光客へのアピールは絶大なものでしょう。

売り場面積グループ最大/DFS免税店 売上見込み額100億円超(2003/12/13沖縄タイムス)http://www.okinawatimes.co.jp/day/200312131300.html#no_4

 この施設のメインアクセスがゆいレールであり、しかも地元向けではない訳ですから強気の予想も当然です。

●予測との乖離について
 需要予測(想定輸送量)と大きく違わないから運営が順調の証左というのは少々短絡的かと。
 予測の何パーセントだから良いなどというのは単に経営的な視点だけの数字論でしかないでしょうね。前提が違うのですから数字が違って当然ですし。
 ゆいレールの場合には開業時から個札が多く、しかもトリップ長が長いので、乗客数が予測を下回っていても収入は確保されているという報道が何度かされています。そういう点まで見なければ順調という評価はできないでしょう。
 すでに沖縄県や内閣府で発表されているように、当初予想されていた「おもろまち」での乗り継ぎが少ないが、一つ郊外側の古島での乗り継ぎが多いとか、当初は転移が少ないと見込まれていた車からの転移が那覇空港では見られるとか、予想以上の観光客が首里まで乗っているとか。そういった予想とは違う動きがあってのこの数字です。安易に数パーセントだから「順調」などと言うのは慎むべきと考えますが。
 そもそも「ゆいレール」は一般的な鉄道整備とは別次元のものです。その整備過程、事業手法、ルート取り等を見れば、これが我が国では希有な事例であり、今後の地方都市における鉄軌道整備スキームの見本であると言えるものであることは明らかです。そう言った点を含めての記述を期待します。

 では

2007.01.28 Update

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