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【検証:近未来交通地図】 特別リポートNo.057
九州収穫紀行2004
グラバースカイロードグラバースカイロードてんじんくん
体感!坂の街の移動サポート
“グラバースカイロード”と“てんじんくん”

(2004/10/03)
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アクセス解析

 坂の街とは、旅人の心をくすぐるものがあるのでしょうか。坂を上りきった時の眺望の素晴らしさに惹きつけられるから。坂の途中には人の暮らしがあり歴史が見えてくるから。段々坂が人生に喩えられるから。神戸、函館、尾道、小樽…当方もそれぞれ想い入れのある街ですが、港町・潮の香り・異国情緒といったことも旅人の琴線に触れる要素のひとつなのかもしれません。
 しかしながら地元の人ともなれば、また違う想いで毎日坂を見つめているであろうことは想像に難くないかと。当方自身、東京も坂の街なんだなぁと最近つくづく感じていたりします。ましてや急傾斜地ばかりとなると、災害発生時の問題は当然、高齢化社会にあって日常生活への支障も懸念されることになります。
 【検証:】では以前、「小量輸送システムの明日…」と題して急傾斜地の移動機関について取り上げました。その際に気になっていたのが長崎市の「てんじんくん」なる斜面移送機器システムのこと。長崎の街らしい細い坂路地に電話ボックスのような箱がまさしく懸垂型モノレール然とした感じで動く姿をたまたまテレビ越しに見たときには、その「大仰とちゃち」と表現したくなる姿に、唖然と云うかなんというか…乗り物好きの血が騒ぐのを感じる?とともに、そのようなものを導入しなければならない背景に思わず思い至ったのでした。
 今回の「九州収穫紀行」、九州新幹線やLRV群や空港アクセスを行程に盛り込んではいますが、発端は佐多岬であり、この「てんじんくん」であったのです。

小量輸送システムの明日… ../../topics/neotrans/log332.html#2


 長崎に来るのは3回目。初回は雨、2回目はあの時と同じであったろう暑い夏の日。今回は夜遅くの到着でしたが、今日も雨は降りませんでした。その日はグラバー園前の宿泊先へ直行。
 翌朝、まず徒歩で目指したのは宿泊先から程近い「都市計画道路南大浦線」…と書くよりも「グラバースカイロード」のほうが知られていましょう。「てんじんくん」に遅れること半年弱、2002年7月に開通した斜行EVです。当方も四方津や西宮名塩で乗車経験はありますが、あちらは坂上での宅地開発の移動手段という位置づけ、要はマンションのEVなどと同じ扱い(住民の共同管理、原則住民のみ利用)である一方、こちらは日本で初の街路(市の管理、利用フリー)だそうで。南大浦町の住民の利便性向上に加え、園内こそESなどを配置してバリアフリーを図っているものの最寄の電停から入口まで板路の続く、グラバー園までのアクセス向上としての役割を担うもので、第15回全国街路事業コンクール特別賞も受賞しています。

グラバースカイロードグラバースカイロード

 長崎電軌5系統の終点、石橋駅から右手の路地をしばし進むとぽんとレンガの建物が見えてきて、丘に沿うように斜めの筒が真っ直ぐ伸びています。途中2箇所に輪っかがかかっていますね。何よりまずは乗ってみましょう…入口はマンションのエントランスのようなお洒落な感じ、扉の上には普通のEVのように階数表示が。こちらは5階建て?ですね。左手横にはモニターがあり、箱内の映像が映っています。斜め上を見やると、筒の横には丸窓。あ、箱が降りてきました。
 高低差50m、傾斜角度31度の斜面を延長160m、3分39秒で上り下りします。箱は17人乗り、そこそこの広さでしょうか…丁度清掃のおじさん(と思ったら、案内員の方なんですね)と観光客の熟年夫婦と同乗したため内部は撮影できず(いろいろ仕掛けがあったようで)…おじさんに怪しまれてもと思ったので降りてからはそそくさと先に進んだので表示等もよく見なかったのですが、稼動時間は06:00〜23:30だそうで。

グラバースカイロードグラバースカイロード

 で、階上はちょっとした広場になっており、長崎の街の風景が広がります…夜景が綺麗かも。で、30mほど奥にもうひとつEVの塔が。こちらは普通の垂直EVですが2003年5月の完成で、この階上から弧を描くスロープを通るとグラバー園の最奥部につくられた第2ゲート前に到着となります。ちなみにグラバー園内にもESや車椅子用リフトなどが配置されていますが、前回の訪問時にESはチェックしているのでパス…もと来た道を降りることとします。

 まずは垂直EVで先程の広場へ。同乗した地元の方(初老の御婦人)に聞くと、やはりできてからは外に楽に出かけるようになったそうで。「本当にありがたいですよ」と仰られていましたね。再び素晴らしい眺望を楽しみつつ、斜行EV横の階段を下りてゆきます。すぐ1区切り降りたところが4F、EV周辺は建設時に整備されており通路も広いですが、階段の横から頼りなげな細道が伸びてゆきます…その脇の古めかしい階段を下りると、どうも廃道になった感の藪道となり頭にまともに蜘蛛の巣をかぶりつつなんとか通路まで降りて戻ると3F。ここと2Fに先程の輪っかがありますが、これはEVの乗り口が登り手左側にしかないので筒をまたぐように通されている通路というわけでした。
 そんなこんなで階下まで階段で降りましたが、整備された階段でも結構きついなという感じですから、まぁ毎日ではたまらないでしょう。先程の御夫人の言葉の重さを改めて感じたのでした。

グラバースカイロードグラバースカイロード

グラバースカイロード http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/glover/m_cont/access.html
よかまちづくり長崎 http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/machidukuri/n_minamiooura.html
観光長崎バリアフリー創造塾 http://www.ngs-kenkanren.com/souzou/atlas/26.html

 グラバースカイロードの見学を終え、ちょっぴり観光気分にと孔子廟やオランダ坂を通り、長崎バスの新地BTへ。いったんリムジンバス乗り比べを兼ね長崎空港へ向かい、県営バス浦上経由便で大橋に戻って、浦上車庫前から長崎電軌の純国産LRV3000形に試乗したのち(それぞれ別編で投稿予定…まだ先かな?)、長崎駅前から2つ北隣の宝町電停で下車しました。さてここからが今回の目玉「てんじんくん」見学です。

 宝町電停は長崎モデル?(熊本にもありますがどっちが先かな)ともいうべき歩道橋直結の電停、山側の歩道に下りてローソンの北側の路地に入ると正面にほっかほか亭があります。もうそのあたりから天神町なのですが、事前のチェックでも詳細な場所までは判別せず…とりあえずその北の路地を山手に入ってゆくと、いかにも長崎らしい風景となってゆきます…結構前でしょうか、ヤマト運輸のCMでも大変さが描かれていた長崎の坂の街ですが、まさしくあのような感じ。通路の路肩と階段には白いペンキでマーキングされています。まぁとりあえず平行の細い路地を南手にぐんぐん進んでゆくと、公園を示す看板がありますが、その公園は長い階段の上…そちらはパスして更に進むと、大きなマンションの下に出ました。ここは隣の御船蔵町のようということで、ついに諦めて?マンションを廻るように伸びる階段を上ることとします…日頃の運動不足を十分実感しながら、先程の公園(といっても小さな砂場があるくらいですが)を横目に更に上ると、マンションの7階くらいでしょうかね、そこから避難通路が崖下の駐車場を跨いで台地の先に延びていました。そこは運動広場となっていましたが、恐らくこの通路で地域住民もマンションのEVを使えることになっているのでしょう。長崎でもこんな坂地というところでも各所で大規模マンションの建築が進んでいるようですが、首都圏では「半地下マンション」問題になっているところ、いろいろな共生の方法があるようです。
 まぁ見晴らしも良いその運動公園で一息入れますが、目指す「てんじんくん」は一体何処に…と、北側から頼りなげなサイレンの音が!もしかして「てんじんくん」運行時の警戒音?と思い込んで、さらに急斜面を登ってゆきます。とりあえず下りになったものの庭先や行き止まりなどで支えつつなお進んで見下ろせる場所に来たとき、遥か下のほうに(…ちょい大袈裟かな)太い鉄線が横に伸びている光景が。まさしくあれだろうとさらに階段を下りてゆきます。

てんじんくんてんじんくん

 やっとのことで「てんじんくん」の坂上乗場にたどり着きましたが、そこも路地が二股に分かれるさして広くない場所。「てんじんくん」に乗ってやってきても、目的地に辿り着くにはまだまだ階段で…という状況にまず驚かされました。極端な言い方かもしれませんが、これでは些細な気休め程度にしか過ぎないのではないか?とつい思ってしまいます。
 ともあれシステムを見ることとします。いろいろ説明書きがありますが、やはり懸垂式モノレール、商品名は「スカイラック」と云うのですか。搬機は坂下で待機中なのが遠めに見えます。利用方法として住民に配られたカードによるとは聞いていましたが、差込口があり、これで呼び出すようです。管理は地元自治会で、後で調べた限りで稼働時間は08:30〜18:30、全長60m斜度24度の区間を歩くよりもやや遅い約3分半で移動するというものです。

てんじんくんてんじんくん
てんじんくんてんじんくん

 昼下がりで人通りもほとんどないことから、とりあえず階段を下りてゆきます。さすがにシステムを導入できるだけの広い階段だったということでしょうか。導入のために拡幅された、という感じはさほどなく、一部には搬機が通っていっぱいと思われる狭い区間もあります。
 さて、降りてきました。まずここでも思うのは、更に下のほうへ行くには段差があるということ。たまたま「乗場」としての空間が確保できたゆえの設置であることを感じさせるとともに、改めて坂の街のバリアフリーの難しさをも実感します。
 それにしても昔の電話ボックス然としたハコですね。頭上には重々しい駆動機器ですが、愛称にちなんだ梅の紋がアクセント。一応2人乗りとのことですが座席がひとつ、介助者の立ち乗りを想定しているようです。ドアなどがない代わりに子供の悪戯防止用にバーがあり、これをロックしないと動かない仕組みの由。座席下には雨で濡れた時にかタオルが押し込まれてありました。室内には使用方法と、緊急時の自治会担当者連絡先が記されているほか、「公民館前では停まりません」との注記も。坂上の乗場から少し下ったところに平地があり、その前がちょうど天神町公民館となっておりますが、停まることもできるようで。

てんじんくんてんじんくんてんじんくん
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 搬機の後ろに坂上と同じカードリーダがあり、その脇には「本機器を見学される方は、上駅(上方)にて見学していただきますよう」との長崎市道路建設課の要望が書かれていました…見学者の多さを感じさせる一方で、さりとて一般見学者?にはどうしようもないことでもありまして…。
 これでとりあえず本望?は果たせたものの、やはり見てみたいのは稼動シーン…といってもそう上手く進むわけでもなく、しばらく居たものの利用者は現れず。住宅街の中ゆえ差ほど長居できる場所でもないと坂下へ進んでゆくと、まだ若い女性とすれ違いました…手には券のようなもの。まさか、と思いつつ行き違ってからしばらくして振り返れば!やはり「てんじんくん」に乗り込むではないですか。これ幸いと稼動シーンを遠目に見届けることとしました。

 ハコ内部のリーダーにキーを差し込み、着座してバーを下ろすと、遊園地の乗り物よろしく「ピリピリリ〜」といった小さな警報音がちょっと鳴ってかくんと出発。稼動中に警戒音はなりませんで、ラック式ゆえカタカタ鳴るのかなと思った駆動音も「ウィーン」という感じでそうしません。レール部分は地面の段差に合わせる形で不規則となっており、見た目では結構上下する感じですが、横への振動はほとんどない様子。浮いて50cmも行かない感じですが、逆に段差に擦りそうになる感じなどちょいとハラハラ。
 ゴール手前の天神町公民館前で一旦停止。その後「ピリピリリ〜」とまた鳴って再上昇。3分半のショートトリップを終え、さしたることもなげにバーを上げて降りて行かれました。

てんじんくんてんじんくんてんじんくんてんじんくん

 なお同種システムは今回チェックできなかったのですが、ちょうど山の裏手になるのか長崎市の立山地区「さくら号」や、稲佐山公園にも導入されている由。またこのシステムは日本建設技術協会の平成14年度「21世紀の『人と建設技術』賞」を受賞するなど全国的にも注目されています。

福祉とまちづくり研究所 http://www.ne.jp/asahi/ku/ka/2002.3/memo/keburu.html
平成14年度 21世紀の「人と建設技術」賞 http://www.zenken.com/hypusyou/21seiki/h14/H14_21_midasi.html

 自分で実際に歩いてみて、さらに稼動シーンを実見して、先程「些細な気休め程度」と云ったことはある意味撤回しなければならないな、と思いました。まさに「てんじんくん」は坂の街に暮らす人々の苦労の上の賜物なのであろうと。何とか導入できる空間に…という果敢なチャレンジとも云えましょうか。機械そのものだけを見ればいささか異質なのですが、それが坂の街になんとも自然に溶け込んでいるように感じられたのです。自治会が運営…というか、「守っているんだ」ということが、周辺街路の小奇麗さからも伝わってきた気がしました。


 最後に、それぞれを見学される奇特な方がいらっしゃいましたら参考までに…。

2004.12.12 Update

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