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【検証:近未来交通地図】Special021
高知へ行こうちや−土佐電気鉄道探訪
(2003/08/17)
土電=KAZ様撮影

 本投稿は、【検証:】掲示板でもお馴染みの、KAZ様より当BBSに御投稿頂きました文章を、読みやすく構成させて頂いたものです(なお一部文面を編集しております)。
 なお、文中の写真はKAZ様に所有権帰属となります

下記内容は予告なしに変更することがありますので、予め御了承下さい。
当サイトの全文、または一部の無断転載および再配布を禁じます。


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 どうもです。
 先日ふらっと高知へ行く機会がありまして、土佐電気鉄道に乗ってきましたのでご紹介しようかと思います。何かの参考になれば幸いです。


土電=KAZ様撮影 後免東町電停

 さて大阪からの夜行快速を後免で降り、JR駅前より市街地を散策しながら土佐電気鉄道(以下土電と記す)の軌道敷を探します。枯れた風情の後免旧市街地を通り抜けると、砂利道と見まごうばかりの土電軌道敷が。

 後免市街地は併用軌道ですが後免東町から後免町終点までは専用軌道で、薄いと言うより「ない」に等しい道床にへろへろと伸びた軌条が廃線敷を思わせますが、結構頻繁に列車が走り意外です。ここから少し東へ歩けば後免町駅、昔は鉄道線(安芸線)との接続駅として機能していましたが、土佐くろしお鉄道(以下TKRと記す)の開業によって再び鉄軌接続駅としての機能を持ち合わせるようになりました。

土電後免町駅
手前はバス乗り場で奥に電車乗り場(ピンク色の広告電車が停車中)
土電=KAZ様撮影
電車乗り場と客待ちのタクシー・撮影位置のすぐ右にはバス乗り場が・・・
土電=KAZ様撮影
土電=KAZ様撮影 土電=KAZ様撮影
TKR後免町駅
高架下に待合室(左写真の左下にある小屋)・トイレがある

 TKR後免町駅はシンプルながら必要な機能は付いており(エレベータ・待合室・トイレ・接近案内放送)、ある意味究極の駅施設かな、とも思いました。待合室やトイレは地平にあって公共施設扱いなのでしょうか、タクシー乗り場もありますから電車・タクシーそれぞれの利用者が使えて便利です。また列車接近案内は1階にも放送されるようで、地平にいても列車接近が分かります。また高架軌道とホーム部が別施工のようで、両方ともシンプルな造りですが必要にして十分。簡素な駅の見本といったところでしょうか。
 対する土電の後免町駅は、これまた簡素な駅の見本のような造りですが印象は土佐くろしお鉄道とは正反対で、みすぼらしく思えてくる有様です。しかし電車・バス・タクシーがひとつのブースに集中し、それぞれの乗換が数十歩程度の移動で可能なのは「非常に便利」な構造です。

土電=KAZ様撮影
後免町駅周辺図

 しかしTKR後免町駅とは微妙な距離があるのが気になるところ。軌道を延ばす空間はあるようですが、やはり延伸となると難しいのでしょうか。

 そうこうするうちに土電駅には注目の「ハートラム」100系電車がやってきました。純国産の部分低床車として鳴り物入りで登場したアルナ工機の「リトルダンサー」シリーズの3連節車で、先頭部の動力台車部分以外は低床となっており、バリアフリー化に一役買っています。

ハートラムと降車ホーム。降車ドア部分にしかホームはない。
土電=KAZ様撮影 土電=KAZ様撮影
乗車ホーム側。ホーム前寄りでは車両との間隙が広いが、扉扱いしないので大丈夫なのかな?

 車内の空間は3連節の効果か、さほど狭い印象は受けなかったものの、座席の一部が床から高くなった場所に設置される形になるため車内に入ってからのバリアができてしまったのが残念なところ。また料金箱が高い位置にあるため高齢者や子供といった身長の低い層には使いづらいようです。しかしオーソドックスな内装と座席配置なので違和感が少なく、そういう意味では「良くできている」のかも知れません。

土電=KAZ様撮影
運転台部分は高床式で動力台車を装備
土電=KAZ様撮影
中間車から後方を望む
土電=KAZ様撮影
出発直前の様子

 ハートラムの車内で観察などしているうちに発車となり、急なSカーブを曲がるといきなり交換設備が。
 これは後免町駅の着線が1本しかないため、先発列車が出発する前に後続が到着した場合に使う待機スペースとして使われているようで、降車ホームも存在します。ここを抜け更に側線のあるスペースを抜けると後免東町、ここから市街地内は併用軌道となります。安全地帯のない電停が土電らしいと言えば土電らしいのですが、やはり危ないですよね。

土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影

 市街を抜けると専用軌道となり、電車は速度を上げて疾走・・・と言いたいところですが、次々に現れる電停と非常に低規格な軌道にスピードは抑えられ、横を走るクルマには追い越されてしまいます。この区間、砕石が新しいので道床が整備されたのかと思いきや、土に還ってしまった道床の上に盛られただけのようで、乗り心地はさほど良くありません。

 しかし専用軌道とはいえ併用軌道と同等の軌道であり、単に軌道敷部分の舗装を行わなかっただけといった様相。特に後免行は路面乗降の電停もあり、実質的には併用軌道です。そんな区間が延々と続きますが、電停間隔が短く使いやすいからか区間利用もそれなりにあり(最低運賃が100円で気軽に使えることも影響している?)、結構いい「乗り」で高知市街へ向かいます。領石通辺りからは本格的に都市近郊といった風情になり(ラッシュ時には領石通発着の電車も多い)、乗降ともにぐっと増えます。文珠通辺りは高知旧市街の外縁が拡大した形で市街化が進んだのでしょうか、日中の区間電車が旧市街東端の知寄町発着から文珠通発着へ変更されており、そのことが盛んにPRされていました。

 国分川を渡り高知の中心市街地へ入ると道路中央に軌道が移りますが、暫くは砂利軌道が続いて一応の専用軌道の様相を呈しています。
 一部に砂利が厚くなっている部分がありますが、これは軌道横断用の「簡易踏切」とでも申しましょうか、土電のそこかしこに見られるものです。それこそ軌道脇の民家玄関へのアプローチとして自主的に整備されていたりするようで(笑)、これでは速度を上げる訳にはいきませんね。善し悪しは別として、これも土電らしい光景です。

土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影

 知寄町を過ぎると本格的な併用軌道になり、この辺りは本当に普通の路面電車です。それにしても電停間隔が非常に短い。郊外区間でもそうなのですが、市街地内ではそれこそ交差点毎に電停があるような状態で、気軽に利用ができるとはいえ郊外から直通利用している人たちにとっては迷惑だったりしないのかとも思いますが、そんな私の心配をよそに車内は満員に近い状態。都心であるはりまや橋電停に着き、降車が続出するのかと思いきや先へ乗り越す利用者も多く、大橋通やグランド前までの各電停に分散して降車していく様を見れば電停間隔はこれでいいのかな、とも思ったり。さて大橋通と言えば芝生軌道、効果はどうなのでしょうか。

 都心部を抜け、複線軌道は相変わらず短い電停間隔で鏡川橋まで続きます。沿線は少し古びた感じの市街で、利用者の高齢者比率が少し上がったように感じます。後免からの電車が折り返す鏡川橋電停は、本当に質素な構造。複線区間はここまでで、この先は単線となります。

土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影

 

 さて鏡川を専用橋で渡れば朝倉の市街地へ入るのですが、ここから先は土電のハイライトとも言える区間で、愕然とする光景の連続です。

 只でさえ狭い街路に入り込む併用軌道、電車線は単線ですから乗降停車以外にも列車交換の停車(電停部が狭いので信号所を設けて列車交換をさせている)もあります。クルマは停車する列車を追い越そうとして対向車線へはみ出しますが、路線バスと電車が並ぶと歩行者すら歩くスペースがなくなる場所もあり、クルマ同士の正面衝突の危険性すらあります。

 更に進むと安全地帯はおろか乗降スペースを示すカラー舗装すらない電停まで現れる始末。かと思えば、乗降スペースが軌条の上に設置されている電停まで・・・。

土電=KAZ様撮影
左のホーム状のものは乗降スペースではなく、ここは単なる信号所
土電=KAZ様撮影
鴨部付近を走る電車と追い越そうとする路線バス
土電=KAZ様撮影
土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影 土電=KAZ様撮影
曙町東町電停 朝倉電停

 こんな光景は朝倉駅前まで続きます。しかし本当に「(悪)夢のような」光景です。しかし夢はこれでは終わらず、この先もまた違った形で夢の光景は続きます。

土電=KAZ様撮影

 さて朝倉駅前を過ぎると国道33号線と合流し専用軌道となりますが、いきなりこんな光景が。
 ん、芝生軌道?なんて冗談はさておき、ここまで雑草が茂っていたら本当に廃線敷にしか見えません。この先も雑草の有り無し・砕石の新旧はあるものの、道路脇にへろへろと張り付く専用軌道が続きます。

 電車は朝倉で折り返す区間列車がないため日中約20分毎となり、沿線も輸送力相応の市街化と言えましょうか。朝倉の西側には小高い山があり伊野側の市街地と隔てられる形になるせいもあるのでしょう。すぐ横にはJR土讃線が併走しますが、あちらは毎時2本程度で都心部へは直通しないせいか、用務客や買い物客は土電を選んでいるようです(JRは学生といった年代層が多く見られました)。

 国道の改良に併せて軌道の改良が行われた区間もあるようですが、基本的なスペックは変わらず路面電車に毛が生えた程度の軌道が続きます。ここでも高知市街方面行きは割と整備されたホームがあったりしますが伊野行き側はほとんど放置状態。まあ「列車を待つ」という行動が多く発生するのは高知市街行き側で、逆向きは降車客が中心であれば、これも「限られた経営資源を最大限の効用を生む形で投入した」ということなのでしょうか。あ、そういえばこの区間でも砂利製の自主踏切が多く見られます(笑)。

土電=KAZ様撮影
専用軌道区間の信号所
土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影
高知市街方面行きのりばはそこそこ整備されているが…

 さて線路は伊野市街地へ入れば再び併用軌道になります。しかし市街地とはいえ「大きな集落」レベルであり、商業・業務集積とも非常に弱いようで都市内利用と思しき流動はほとんど見られません。混雑する国道から別れて狭い道へ入れば、すぐに伊野駅に到着。一応は駅舎がありますがここも非常に質素(貧相?)なターミナルです。

土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影
伊野市街地付近の軌道の様子
土電=KAZ様撮影
伊野駅・左の建物が待合所

 JR線の伊野駅とは、終点の僅か手前にある伊野駅前電停で一応は結節しているようですが、国道と駅前広場を挟むので少し距離があります。連絡運輸の必要性は薄いのかも知れませんが、土電側のターミナル施設も老朽化していますからいっそのことJR駅前広場への乗り入れを行ってJR側と施設共用などを行えないものでしょうか。もしくはいっそのこと朝倉〜伊野間はJR線へ乗り入れる形で重複投資を避けるような工夫ができないものでしょうか。土電の軌道敷は道路の改良用地に使えるでしょうし、JR線側に駅を増設し、土電の電車が各停・JRの列車は速達列車といった位置付けにすれば土電の機能代替を受け入れることも可能かと思われますが、実際には併用軌道が絡む土電と広域ネットワークを担うJR列車が同じ線路を走るのはダイヤ構成上のネックになってしまいそうですね・・・。

 さて妄想はこのくらいにして、後免から伊野まで土電をさらりとご紹介致しましたが、土電はこの他にJR高知駅前からはりまや橋を通り南へ抜ける「桟橋線」もあり、こちらは市街地内で完結する本当の市内線で、しっかりとした整備がされているのが対照的です。

桟橋線はセンターポール化され、非常にすっきりとした景観になっている。
土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影土電=KAZ様撮影
高知駅前 JR高知駅の真ん前まで軌道が突っ込んでおり、コンコースを出るとすぐに電車に乗れる。

 このように整備された桟橋線に対して簡素を極める後免・伊野線という両極端な路線を有する土電ですが、最近は桟橋線と後免・伊野線の直通運転を各方向で行うなど様々な改良も行われつつあります。後免線では区間運転列車の郊外側への延長運転も行われ、積極的な経営方針と思われますが実際には高知市街地の求心力低下が囁かれ、後免線沿線や伊野線朝倉付近はバイパスも整備されていることから自動車との競合も激しくなっているのでしょう。しかし大昔から郊外線と市内線を融合させ直通運転を行うという実は注目すべき輸送形態を実施していた事業者であり、これからの動きが気になります。在来車の更新時期も迫っているようですし、この機会に高知都市圏の公共交通網を再構築すべく、しっかりとした検討が必要かも知れませんね。鉄道趣味という面では「味のある」今の雰囲気は堪らないものがありますが、都市交通として見た場合は全く別の意味で「堪らない」部分もありますので・・・。

 ということで高知・土電紀行でした。主観が多分に入った文章になってしまいましたがご容赦願います。


「中身」も大事です
 投稿者---551planning(2003/09/11 16:18:14)

 遅レス御容赦…こんな記事が出たもので。

土電電車案内板を一新 分かりやすい表示に 高知(09/10) http://www.kochinews.co.jp/0309/030910evening02.htm

土電

 国・県などからの近代化設備整備補助を受け、総額約6,600万掛けて直すのは電車の案内設備システム。行先方向幕を電光式の行先表示器に(LED化か?)、車内には停留所名表示器を新設するとともに、運賃案内をバスと同じ整理番号にし利便性を向上させる由(最近各地で導入が進む整理券バーコード読み取り方式か?)。さらに車内アナウンスも、テープ音声から音声合成装置に「グレードアップ」。これら案内装置やアナウンスはボタン操作で連動するようになっているとか。紹介サイトには写真も載っていますが、従来の「急ブレーキ注意!」という細長の警告灯の下のスペースにバス型LED運賃表示機が追設されているのが判ります。

 当方も昨年夏に一通り全線試乗し、特に初乗だった御免からの「併用風専用軌道」やかの朝倉市街からの伊野越えにかけての「萌え」な区間にはびっくりしたものですが、KAZ様のレポートを見てもおぉ変わりなく…(はて良いのかな?)と思ったものです。ただ御紹介のあった芝生軌道然り、駅前「直結」(こういったら怒られますが、豊橋なんでメじゃない!これぞ直結です!)なんてな施策も取り入れていますから、まだまだオモシロイよ、といったところですね。
 そんな最中こんなサイトも見つけました。昨年度のものではありますが、確かにごめんなはりや空港バスなど【検証:】で採り上げているように、高知の公共交通は変革期にあることを改めて印象付けられましたので御紹介しておきます。

高知県交通政策課 Think! もっと考えよう、私達の公共交通 http://www.pref.kochi.jp/~koutuu/koukyou/think/thinktop.htm

2005.06.10 Update

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