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※当リポートは発表後の変化を反映させ再構成した Reconstruction スタイルです。
運輸政策審議会答申第18号概要
≪掲載日:2000/01/30≫ 【再構成:2002/12/2011/01】
去る1/27、運輸相の諮問機関である運輸政策審議会地域交通部会が、2015年までの首都圏の鉄道建設の指針となる「東京圏の鉄道整備計画」答申を発表しました。前回1985年7号答申(2000年度目標)から15年ぶりの改訂となり、注目を集めています。
下記に今まで入っている情報をもとに概要をまとめてみました。
(下記内容は各種新聞記事からまとめたもの、会社名等は特記なし限り略記)
- 答申内容は推進進度に対して分けられているランクに分類して記載
- 現在工事中、開業が明確なものは記載せず
- 7号答申に盛り込まれていなかったものは
- 7号答申に盛り込まれなかったものの、1999/06発表の「都市鉄道調査・緊急整備策」対象のものは
A…目標年次(2015年)までに整備を推進すべき路線
A1…現在整備中の路線および目標年次までに開業することが適当な路線
整備内容 | 整備路線区間 |
---|---|
JR東北線と高崎線、常磐線の延伸 | 上野-東京 |
神奈川東部方面線(仮称)の新設 | 二俣川-新横浜-大倉山 (-東横線直通) |
東急東横線の複々線化 | 日吉-大倉山 |
川崎縦貫高速鉄道(仮称)の新設 | 新百合ヶ丘-宮前平-元住吉-川崎 |
東京7号線(埼玉高速鉄道)の延伸 | 浦和美園-岩槻-蓮田 |
京急久里浜線の延伸 | 三崎口-油壺 |
北総・公団線の成田空港への延伸 | 印旛日本医大-土屋-成田空港 |
横浜3号線(横浜市営地下鉄)の延伸 | あざみ野-すすき野付近 |
千葉都市モノレールの延伸 | 県庁前-中央博物館・市立病院前 |
4区間が今回正式に答申に盛り込まれたが、それぞれ以前より各種構想等で指摘されていた路線。
大きく報道されたのは緊急整備策にも挙げられたJR東北線路盤復活による東海道線との相直案。
なお、常磐新線(秋葉原-つくば)・舎人新線(日暮里-見沼代親水公園)に関しては、毎日新聞上では解説の路線図に明記されている。
A2…整備主体の見通し等の整備に関わる熟成度の課題があるが、少なくとも目標年次までに整備着手することが適当な路線
整備内容 | 整備路線区間 |
---|---|
東京8号線(営団有楽町線)の延伸 | 豊洲-東陽町-住吉、四ツ木-亀有-野田市 |
東京11号線(営団半蔵門線)の延伸 | 押上-四ツ木-松戸 |
東京12号線(都営大江戸線)の延伸 | 光が丘-大泉学園町 |
東京1号線(都営浅草線)の東京駅乗り入れ | 日本橋・宝町-東京 |
横浜環状鉄道(仮称)の新設 | 元町-根岸-中山、日吉-鶴見 |
JR総武線・京葉線接続新線(仮称)の新設 | 新木場-新浦安-船橋-津田沼 |
JR京葉線の中央線方面延伸 | 東京-新宿-三鷹 |
JR中央線の複々線化 | 三鷹-立川 |
京急空港線と東急目蒲線の短絡路線新設 | 大鳥居-京急蒲田-東急蒲田 |
小田急小田原線の複々線化 | 和泉多摩川-新百合ヶ丘 |
横浜3号線(横浜市営地下鉄)の延伸 | すすき野付近-新百合ヶ丘 |
東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)の延伸 | 豊洲-勝どき |
千葉都市モノレールの延伸 | 中央博物館・市立病院前-星久喜ターミナル |
多摩都市モノレールの延伸 | 上北台-箱根ヶ崎 |
注目はJR京葉線の活性化案。東京-新宿直行路線の誕生が交通網をどう変える?
緊急整備策に挙げられた羽田空港関連路線整備2区間も現実性との兼ね合いからかこのランクに。
B…今後の整備について検討すべき路線(判明分)
整備内容 | 整備路線区間 |
---|---|
東京12号線(都営大江戸線)の延伸 | 大泉学園町-JR武蔵野線方面 |
「エイトライナー」「メトロセブン」の新設 | 羽田空港-赤羽-葛西臨海公園 |
東海道貨物支線の旅客化 | 品川・東京テレポート-羽田空港口-桜木町 |
川崎アプローチ線(仮称)の新設 | 浜川崎-川崎新町-川崎 |
相鉄いずみ野線の延伸 | 湘南台-JR相模線方面 |
東急田園都市線の複々線化 | 溝の口-鷺沼 |
小田急多摩線の延伸 | 唐木田-JR横浜線・相模線方面 |
東京10号線(都営新宿線)の延伸 | 本八幡-新鎌ヶ谷 |
京成千原線の延伸 | ちはら台-海士有木 |
幕張地区の新交通システムの新設 | 海浜幕張-JR総武線方面 |
東海道貨物支線旅客化案は神奈川東部方面線等との現実性の兼ね合いから判断されたものか?単純に言って、線路がすでに引かれているのはこちらなのだが…。
都営新宿線の千葉NT方面延伸案は7号答申時に削除されたものの復活。
付記…その他の事業について(判明分)
<整備課題とされたもの> | |
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JR成田線の設備改良(信号保安設備改良等)【千葉日報】 | 成田-我孫子 |
JR武蔵野線の海浜幕張乗り入れ【千葉日報】 | 西船橋-南船橋-海浜幕張 |
成田空港高速鉄道複線化【千葉日報】 | JR成田線分岐点-根古屋信号場-成田空港 |
JR相模線の設備改良(行き違い設備新設等)【産経横浜版他】 | 茅ヶ崎-橋本 |
<答申対象外となったもの> | |
京急久里浜線複線化【神奈川新聞】 | 京急久里浜-YRP野比-京急長沢 |
京王相模原線の延伸【神奈川新聞他】 | 橋本-相模中野 |
JR武蔵野南線の旅客化【日経横浜版】 | 府中本町-鶴見・川崎 |
ここで個人的感想を。
率直なところ、ほぼお役所的観点から脱していないものと。利用者は歓迎しても鉄道会社は少なくとも歓迎はしないものと思われます。
長引く不況に加えて長期的利用者減少傾向の拡大が進む中、独立採算制堅持下では大規模投資は私企業において限りなく抑制される方向にあります。特に民鉄においては事業安定化の柱であったはずの付帯事業の多くが負債を生む状況に陥り、それらを支えてきた運輸事業自体の低迷とダブルパンチに見舞われ、早急なる事業再構築に追われている状況は、ガリバーであった東急の惨状を見るまでもなく明らかです。
顕著な例として1987年から民鉄5社に適用された「特定都市鉄道整備事業」の進行状況が挙げられましょう。財源確保のため時限的に一定限度の運賃上乗せを許容して事業完遂への速度向上を目指したものが、折からのバブル景気による土地高騰に巻込まれた結果、堅実的に車両大型化や駅舎改善に振り向けた京王電鉄以外、完遂どころか更なる運賃上乗せ期間延長という事態に陥っています。小田急は下北沢付近複々線化事業方針で沿線住民との対立が泥沼化、騒音問題で公害等調整委員会から賠償命令が出されるに至り(98年7月、住民側が提訴、現在訴訟中)、西武に至っては事業そのものの一部中止(新宿線地下急行新線の断念)を決定、京王が上乗せ解消に伴う運賃値下げを実行したことと明暗を分けています。
では利用者も諸手を挙げて歓迎しているか、という点ですが「さにあらず」というところでしょうか。確かに混雑率の低下も重要事項ではありますが、昨年来からの新幹線路盤コンクリート崩落事故に代表される安全・定時性への不信感は相当なものとも思われます。『(相次ぐ中央線の事故・不通で)これまでに使ったタクシー代はばかにならない。事故を無くすか、もう一本線路を引くか、どちらかにして欲しい(01/27付朝日新聞夕刊より)』という中央線利用者の意見は切実なものです。また、実際にできたところでその建設費用の一部は実際に運賃として負担しなければならず、北総・公団線や東葉高速鉄道など開業までの紆余曲折でかなりの高運賃が設定され、時世を反映してか通勤定期券負担において安い平行路線利用を勧めて当該路線利用を認めない企業もあるなど、悪循環となっている現実があります。ついには千葉急行電鉄の様に営業譲渡・解散に追い込まれた例も記憶に新しいところです。
そもそも、混雑率の緩和として運輸省など関係機関は時差通勤を奨励し、具体的数値を挙げて「時差定期券」等の発売等を打診したのはまだ昔話ではないはずです。今後就業人口や通学人口の低下で確実に定期的な公共交通利用者数は減ってゆくことになります。交通各社は利用者の囲い込みを強めると共に「バリアフリー」の観点から各種拠点整備に追われており、現に運輸省の指導もあります。その中で既存路線の最大限の活用を目指すような指針が今回積極的に盛り込まれていない様に見うけられる点も気になるところです。
なぜお役所的観点から脱していないかという点。「民意も反映されている」という評価もなされていますが、今や「鉄道の利便性向上」が民意なのかということすらを考えるべきではないでしょうか。
例えば羽田空港へのルート確保・改善策が挙げられていますが、これまでモノレールとリムジンバスだけというあまりにも公共交通利用が不便だったことに加え、今なお自動車利用が不便であるという現実を忘れてはならないと思います。成田空港利用者の動向を見ると、JR・京成の鉄道利用者よりも乗用車(リムジンバス・タクシーを除く自家用車)利用の方が勝っているのです。これはもともと成田空港アクセスに鉄道の利便性が低かったことを差し引いても、空港周辺に格安の民間駐車場が多く進出したことの現れであり、片や羽田空港周辺の駐車場は空港ビル直結のものだけといって良く、そこも利用料が高額であることからさほど使われていないのが現実です。例えば成田空港の様に川崎浮島に大規模格安駐車場を設置し、空港と送迎車で結べば確実に利用はあり得ましょう。羽田空港と都心部を直結する施策は大変重要ですが、京急空港線延伸後モノレールと共に2ルートとなったことで現状あまりにも不便というわけでもなくなり、さらに危機感を強めたリムジンバスが路線の拡充策を強めていることや、来年度に予定されるバス事業の需給調整規定撤廃で新規参入が可能になることで空港アクセスの改善は大きく進展する可能性を持っています。
また、今回の答申でも道路交通の整備策との連携・関連付けという視点が全く見られなかったのは遺憾というべきでしょう。鉄道を引けば自然に付帯して沿線開発が…という時代はすでに過ぎ、確固たる街創りと公共交通整備の整合性は密接な関連にある時代となっているのではないでしょうか。
例を挙げると、今回神奈川県関連のものが多いことが目を引きますが、横浜環状線構想は県や横浜市が道路整備でも持っているプランであって、県として要望段階でどちらかに統一するなり県自身の計画の明確化を図るべきであったのが、それがなされているように見受けられない事から、なんだか「躍らせる笛が欲しいが為に」と映ってしょうがないのです。そもそも、財政緊急自体を発動している神奈川県に余裕があるのか疑問としか言いようがありません。
長引く不況のもと、大規模経済対策たる公共事業の目玉として、首都機能移転や首都圏第3空港整備案などが検討されていますが、そのような流れとの関連付けも不透明です。いまだ今回の答申の全貌を目にしない段階では結局のところ暴言になるかもしれませんが、お役所の縄張りがそのまま反映されてしまった答申でしかない、と断じざるを得ないのではないかと思われます。当方はなにも新規路線整備の撤回を主張するものではありませんが、真に利用者が望んでいる施策を関係機関には熟考して頂きたく思うと共に、我々利用者が声を大にして訴えてゆく必要性を改めて痛感しているところです。
答申内容を読んで
投稿者---brother-t@山中氏(2000/02/04 13:43)
僕が最初にこの答申を読んだとき感じたのは、「地下鉄の延伸が多いなあ」ということで、埼玉高速線の延伸である蓮田方面、8号線の延伸である野田方面等、遅い地下鉄に1時間も乗って都心へという構図があるわけです。僕だったらそうしていたいと思うかといえばやはりそうでなく、更にこれらは第3セクターが運営する路線として作られると思われ運賃が高ければそれはそれでつらいものがあります。
実際、この手の答申を信じるかといえばそうでなく、信じる事の出来る答申にする為には、レポートでもあった様に、財源、運営主体、現状の混雑率とできた時の改善効果(は一応示されてたと思う)、道路交通との整合性を示すのが政策として当然のことといえます(お役所仕事ではね・・)。
あと、関係はないのかもしれないのですが第3セクターの建設主体と既存鉄道会社、運営主体の第3セクターの関係について何らかの答申が必要なのではないだろうかと思います。どうせやるのならもっと実になる答申をしてほしいものです。
Review:まもなく丸2年。
投稿者---551planning(2002/12/01 09:07)
答申からまもなく丸2年。趣味的には大きく注目された運政審答申ではありますが、現実はというと泥沼に陥りつつある大不況の中、それぞれ芳しい話題は聞かれないのが実情です。
一例として、千葉都市モノレール問題が挙げられましょうか。堂本千葉県知事の肝いりで、A1整備とされている県庁前―中央博物館・市立病院前区間の建設はもとより、既開業区間の慢性的な赤字含め総合的に調査・検討する「千葉都市モノレール検討調査委員会」が2002/06に設立され、先頃提言書が纏められています。これが何を意味するのか…A1路線だけでなく、運政審答申で示されている案件の多くが数十年前からのものであり、運政審答申にあっても抜本的な見直しが行われていないのではないか、ということが指摘できようと考えます。
営団南北線、都営大江戸線、TWR、営団半蔵門線…運政審答申の前後も首都圏鉄道整備は着実に進んでいます。それらも利便性向上と引き換えに莫大な建設費というものを生み出していることがマスコミによってクローズアップされがちなのは、致し方なしとはいえ一面的であり、より多角的な検証が求められるのではとも考えています。道路公団問題ばかりが先行していますが、整備新幹線や都市鉄道のあり方そのものもまた、暗い影を内包していることを我々は心に停めておくべきでは無いでしょうか…。
2011/01
残り5年となって、改めて厳しい経済情勢であることに嘆息するとともに、一方でインフラ整備は着実に進んでいるのだなとも感じさせられます。
A1ランク9件のうち、2010年に成田スカイアクセスが開業、東北縦貫線(仮称)も2013年度開業を目指し急ピッチで建設作業が進められています。更に神奈川東部方面線がJR-Eも絡む変則的な形となって2015年に相鉄・JR直通線が、そして2019年に相鉄・東急直通線が整備される方向に。なお東急側接着点は大倉山から日吉に変わっています。
いっぽう残る5件の情勢は厳しく、川縦や千葉モノは政治に振り回された側面もありますが、やはり採算性が問われると難しいかなとも。いわんやA2ランクをや、と。
いっぽう、1999年に創設された鉄道駅総合改善事業費補助(都市一体化)による整備が進展、ピンポイントではあるものの目に見える分強い印象を受けます。加えて2005年には都市鉄道等利便増進法が制定され、先述の相鉄~JR・東急直通線整備はこの対象事業として整備が進められることとなっています。
ご意見は【検証:】常設板までお気軽に!
取り纏め時の記憶があやふやですが、現在なら下記のように発表記載ページを示して終わりの所、まだまだインターネットでの情報開示が進んでいかなったことから各種報道(しかも実際の新聞紙面ベース)から拾ったものと思われます-そんなところも「10年ひとむかし」かと。そしてその10年の時間経過は興味深い展開を示していますが…それはページ最下部にでも。
なお本編では注記を加えていませんが、運輸政策審議会は中央省庁再編に伴い2001/01に国土交通省内に設置された交通政策審議会に発展改組されていますので念のため。
国土交通省-東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について(答申)