【検証:】過去ログSpecial

【検証:近未来交通地図】Special015-2
「のぞみ」シフトを検証する(改稿)
(03/04/27〜/17)

 本投稿は、【検証:】掲示板でもお馴染みの、和寒様より当BBSに御投稿頂きました文章を、読みやすく構成させて頂いたものです(なお一部文面を編集しております)。 また、文中の写真は和寒様に所有権帰属となります

 なお、【検証:】では掲示板投稿に限らず広く皆様からの御意見・レポート等を御紹介致します。自分ではホームページを持っていないけれど、意見が結構纏まっている…という貴方、各種ご相談に応じますのでお気軽に管理人までどうぞ!

下記内容は予告なしに変更することがありますので、予め御了承下さい。
当サイトの全文、または一部の無断転載および再配布を禁じます。



ひかりからのぞみへ「?」(RJ記事への異論) ../log092.html#2
「のぞみ」と「昼特急」と「青春18」の経済学 
../log093.html#6

 (御案内)

 今回のタイトルに「改稿」とあるように、当初発表分(1月投稿)以降の議論経過を踏まえ、和寒様が「評価編」への加筆ならびに「結論編」の加筆改稿を行われました。
 下記収録に当たり、管理者の判断により既出部分については 灰色で色分け をすることで、初稿版との読み比べが容易にできるような対応を行なっております。

 なお、この論文につきましては和寒様のサイト「以久科鉄道志学館」にて加筆部分を修正した通しでの掲載がなされていますので、こちらも是非御覧頂きますよう御紹介させて頂きます。 

以久科鉄道志学館 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/nozm/00.html

 それでは和寒様が改稿に至った直近の経緯からどうぞ…(551planning@おさぼり管理人)

前ページより

クライアントの憂鬱
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/03/29 17:24:35) http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

●「ヘビーユーザー」と「クライアント」

 新幹線、というか東阪間(首都圏−関西圏)マーケットの特徴として、その太宗がヘビーユーザーであると同時に、いかに高頻度で利用していても自主的に利用手段を選択できないということが挙げられます。
 つまり、それを決める真の「クライアント」はあくまで企業であり、新幹線、航空機ともそのニーズをどれだけ汲み取れるかに勝敗の帰趨がかかっています。

 ところが現状は、経営的に見て費用対効果が無いと判断される「のぞみ」シフトを進める鉄道に対し、探せば安いだろうが料金体系が複雑で下手をしたら相当なコストアップになる航空機と、どちらも不満が残るものです。特に航空機は、航空運賃自由化後の複雑な運賃体系は企業の予算管理や出納の対応を越えており、東阪間のように日に数十〜百人単位で移動するようなケースにおいてそれをメインの交通手段として指定したら恐ろしいまでの不合理を甘受するか、回数券など最安値では無い運賃水準に割り切って管理するしかなくなります。

 この点が最安値=ビジネスきっぷの新幹線の強みですが、それがデファクトスタンダードになっているため、本来の個札料金が有名無実化している悩みもあります。「のぞみ」の「実態の」附加料金が個札の970円ではなく回数券の2350円だからここまで支持が無いのがその象徴ですし、今の料金が15%引きのサービスといっても、スーパーの「通常価格」と一緒で意味が無い数字になっています。ですからあくまでビジネスきっぷの価格からの増減で利用者の抵抗感を計らないと、マクドナルドの迷走のような事態に陥らないとも限りません。

●利用者心理

 東阪間の中心街相互では新幹線が最も速いという「定理」ですが、一方で「3時間も同じ場所に座っているのは辛い」というケースが増えていることがあります。
 羽田まで、伊丹・関空からのアクセスが掛かるといっても1時間前後。同じ3時間でも1時間ごとに気分が変わるほうを選ぶ人は増えています。トータルの就業環境と言う意味で企業が航空機利用を容認することもあるわけです。
 ちなみに、北九州や山口県のように航空機が不便で「のぞみ」利用が実は速いエリアであっても、わざわざ2時間かけて板付経由の航空機というのが主流です。これは、4時間も新幹線に座り詰めはかなわん、という主張が容認されていることに他ならず、こうした「不満」も汲み上げる時期でしょう。

●競争と共同

 新幹線の「瀬踏み」に航空機の「及び腰」、現状を端的に表すとそういう感じです。
 ユーザーと企業が新幹線に明らかに不満を抱いている中、今回の「のぞみ」料金温存の一報で、航空機に過去最大のチャンスが訪れているのは確かなんですが、どうも航空機側はこのマーケットを取りに行くのではなく、「のぞみ」の半歩後ろくらいを付いて歩いて「新幹線+α」の収益を確保しようとする戦略のように見えます。

 本来は現状の「7:3」でも「6:4」でもいいんですが、競合関係による緊張がコストパフォーマンスに良い影響を与えるのが利用者にとってベストの状況です。その意味でどちらかの一人勝ちは総合交通論には効果的ではありますが、その果実が利用者に還元される保証が必ずしもないことから、敢えて若干の不合理を甘受してでも適切な競争関係が望ましいと考えますが、現状は美味しいマーケットを競争ではなく共同でしゃぶり尽くしているという感が否めません。

●常に何かが選ばれるとは限らない

 ただ、ここで最後の問題提起をしたいのは、ヘビーユーザーのように選択の自由が事実上無いケース、つまり、企業が最も効率的な手段を選んで指定しているケースにおいては、そのシェア変動は漸次変化するのではなく、ある限界点を境に一斉に変わるということです。過去のあらゆるマーケットを見ていても、二強が競い合うケースではシェアが一進一退という傾向ですが、寡占マーケットにおいてある日革命的な新商品、新サービスが出てきた場合、そのシェアを一夜にして失うが如き大変動になります。

 新幹線がある日そのシェアを航空機に譲るという可能性もありますが、それよりも有り得る話は、「出張しない」という選択肢を「もっとも効率的」として指定することなのです。
 先に、何も「のぞみ」じゃないと間に合わない時間に会議を設定しない、といいましたが、その程度の些細な、かつその方が効果的な変更であれば手段に目的も合わせます。
 しかし、例えばかつて出張といえば宿泊してじっくりというケースが多かったのが今や相当な範囲まで日帰りです。これにより仕事の面では重要である相手とのコミュニケーションが希薄になる面もありますが、宿泊出張による非合理とコストを考えた結果です。

 手段が非合理であり、目的の遂行の妨げになる、また、他の手段で代替し得るというとき、何も「出張」に固執する必要はないのです。企業にとって「出張」は手段であって目的ではなく、他の手段で会議や商談が可能であればそれでいいのです。
航空機や宿泊施設の値段が下がってきており、宿泊出張のコストは相対的には下がってますが、もはや日帰り出張が再度宿泊になることはありません。
 瀬踏みもいいですが、出張自体が無駄、と見なされるラインがどこらへんにあるのかを見極めないと、取り返しのつかない事態になるのです。

展論の予約
 投稿者---和寒氏(2003/03/31 08:31:30) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 エル・アルコン様の御意見を拝見するに、いよいよ私の見立てはあっていそうだと確信を持つに至りました。しかし、それを詳しく書くには時間が要ります。十日内外の御猶予を頂戴したく。

 そして、敢えて苦言を。エル・アルコン様と私の考えは、そう大きく違うとは思われません。であるにも関わらず、エル・アルコン様の書き方ではどうにもものたりない。もどかしいと形容してもいいです。問題の所在に灯を当ててはいるけれど、一面からの照明であるため、濃い影が出来ている。エル・アルコン様は当板のオピニオン・リーダーなのですから、期待されるレベルはこの程度ではとどまらないはずです。
 私が書こうとしているのは、エル・アルコン様への反論ではなく展論です。エル・アルコン様の御意見を理論的にトレースしつつ、航空と新幹線の戦術を検証しつつ、今後なすべき展開を立論してみたいと思います。

「のぞみ」シフトを検証する…改稿
 投稿者---和寒氏(2003/04/27 07:27:41) http://www.geocities.jp/history_of_rail/

 エル・アルコン様、皆様、お待たせしました。それなり調べてからと思っていたら、十日内外どころではなくなりましたね。申し訳ありません。
 ともあれ、拙論「『のぞみ』シフトを検証する」を改稿加筆するかたちで展論を試みました。御笑覧のほど。
 なお、この「評価編」から、さらに「結論編」の改稿と「感想戦編」の書き下ろしを考えてます。


評価(2003/04/27 02:27:41)

■時間価値から見た「のぞみ」の効用


(前提条件)利用者分類

ダイヤ\乗車券

「ビジネスきっぷ」
利用可能層

「ビジネスきっぷ」
利用不可能層

現ダイヤ速達「ひかり」利用可能層 A1 A2
現ダイヤ速達「ひかり」利用不可能層 B1 B2
旧ダイヤ C1 C2

 時間価値は属性や計測手法により大きな幅をとるが、業務目的の地域間交通では50〜80円/分程度となるのが普通である(ここでの数字の幅は個人差ではなく計測手法の違いによる)。つまり、A2〜C2の「のぞみ」利用に要する追加投資は時間価値より小さく、A1〜C1の「のぞみ」利用に要する追加投資は時間価値よりも大きい。即ち、「のぞみ」を利用することにより、A2〜C2は受益し、A1〜C1は受損する。
 この時なにが起こるか。A2〜C2においては「のぞみ」を利用するインセンティブが働き、また全体として需要が伸張する。(図1)

 これとは逆に、A1〜C1においては「のぞみ」を利用するインセンティブが働かず、「のぞみ」利用を迫られる状況下では需要が縮小する。実際にはまだ多数の「光」が運行されていることから、A1〜C1層は受損する行動を敢えて採ることなく「ひかり」を選択し、「のぞみ」にはシフトしない。(図2)

(図1)

 

(図2)

参考:利用者便益分析の解説を試みる http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/benefit/00.html
 


■景気変動や需要急伸(急縮)を利用者便益理論から説明する

 これまでの記述の中では、説明を簡単にするため、需要曲線に特定の関数系を仮定してきた。しかし実は、需要曲線がどのような関数系であっても、さらにいえば、どのような関数系であるか特定できなくとも、事前の(Q0,C0)及び事後の(Qd,Cd)さえ特定できれば、利用者便益を計算できてしまう(※)。

※:これは利用者便益理論が確立されていく中で立証された公理であり、この証明過程の説明は、残念ながら筆者の能力を大幅に超えてしまう。この部分に関して興味がある方は、利用者便益理論のテキストを御一読ありたい。

 一般化費用の低減により想定される以上の需要の急伸があった場合においても、利用者便益は常に (Ci-C0)(Q0+Qi)/2 と表現される。

***
 さてここで、一般化費用を金銭的コスト、また需要曲線Dを QC=Constant(定数) と単純化して仮定しよう。このQCとは、利用者が支払う運賃料金の総額、即ち市場の規模にほかならないことに留意されたい。この点に着目して論を進めてみよう。
 運賃料金の値下げにより想定以上に需要が急伸した場合には、需要曲線は D0から Diにシフトしたとみなすことができる。つまりこの事例では、運賃料金の値下げが市場規模を拡大させたといえる。極めて大雑把に要約すれば、この市場規模拡大は経済成長と相似するものである。

 これとは逆に、運賃料金の値上げにより想定を超えて需要が減った場合には、需要曲線は D0から Ddにシフトしたとみなせる。つまりこの事例では、運賃料金の値上げが需要を冷えこませ、市場規模の縮退つまり経済低迷につながったといえるのである。(図3)

 以上までの分析を是と首肯しうるならば、運賃料金が一定でも景気変動によって需要が伸縮する、という現象の背景が容易に理解されるであろう。要は、外的要因により経済の全体が成長(縮退)すれば、その外的要因が関わらない市場でも需要が伸びる(縮む)ということである。(図4)

(図3)

 

(図4)

■「マクドナルドのジレンマ」を利用者便益理論から説明する

 利用者便益理論においては、需要曲線はどのような関数系でもいいという公理を逆手にとり、下図のような極端な関数系を仮定してみよう。これは(Q0,C0)を折れ点とする需要曲線であるから、現状のバランスはごく不安定なものであると理解できる。

 この需要曲線の特徴は、運賃料金を値上げしても値下げしても、市場規模を表すQ×Cが小さくなるという点にある。これは日本マクドナルド社が直面しているジレンマの相似形である。商品を値下げすれば需要が伸びても利幅が減るし、そうかといって値上げすれば(というより元の価格に戻すとした方が正確か)客が逃げ売上減になるという現象を、このグラフは表現している。

 これと同じ現象が、東海道新幹線のヘビーユーザー層(出張目的での利用者)においても起こりうる。現下の厳しい経済情勢のなか、平均的な企業ではあらゆる面でコスト下げ圧力が働いていることを鑑みれば、東海道新幹線の運賃料金を値下げしたところで、新規の出張需要を喚起するとは考えにくい。出張回数実績に値下げ後の運賃料金を乗じた予算が作成され、市場規模はむしろ縮退する方向に傾くであろう。運賃料金を値上げすれば、さらに悪い結果が待っている。予算枠が固定されていれば、売上がこれを上回ることなどありえないからだ。値上げが景況感を冷えこませれば、需要は一気に縮退する。
 東海道新幹線は、ヘビーユーザーに対して、値上げも値下げもしにくい微妙なバランスの上に成り立っている。「新幹線ビジネスきっぷ」の価格設定改定は、その方向が値上げであれ値下げであれ、需要を縮退させるリスクが大きい。

 しかし、経済活動において単純な割り切りは危険である。「需要を縮退させる策=非」と断じきっていいものかどうか。
 なぜならば、東海道新幹線ヘビーユーザーの需要縮退とは、各企業にとっては出張旅費コストの低減を意味するからである。つまり、各企業では、出張旅費削減分だけ可処分の利益が増える。この利益は(不良債権処理というブラックホールに吸いこまれない限り)なんらかの形で必ず社会に還元される。勿論、それが東海道新幹線にまっすぐ反映される保証はほとんどないとしても、需要拡大に好影響を与えることは間違いない。
 東海道新幹線がヘビーユーザーを失うと、短期的には確実に損失を被る。しかし長期的に見れば、必ずしも損ばかりとは限らない。このあたりの評価は、実に微妙である。

■「のぞみ」は利用者にどう受け容れられたか?

 「のぞみ」は確かに速い。しかし、運行本数が限られるし、全席指定車でキャパシティに自由度がなく、そのうえ付加料金が必要である。その一方、付加料金不要で自由席車付の「ひかり」運行枠は減じられている。新幹線全体を通して見た場合、「のぞみ」運行により効用が高まったのか、それともかえって効用が下がったのか、にわかには判じがたい。
 この点について評価するには、理論を四の五のするよりもむしろ、実際の利用者の挙動を分析した方が早道であろう。というわけで、以下に東海道新幹線及び山陽新幹線の輸送密度の推移を示す(参考文献(01)〜(05)より作図)。

 ここ10年の値を見ると、東海道新幹線が21万人/km日前後、山陽新幹線が 7万人/km日前後と、輸送密度実数には3倍ほどの開きがある。しかしながら、その振れ幅には極めて強い相関性があることが見てとれる。両新幹線の輸送密度に相関性があることの背景には、両新幹線を直通する利用者動向の影響を受けていることの反映と考えられる。即ち、このグラフから、1)のように分析できる。

1)山陽新幹線の輸送密度変動は、主に東海道新幹線から直通してくる利用者の影響を受けている。

 山陽新幹線の輸送密度は明確に減少傾向をたどっている。阪神大震災による不通の影響を受けた平成6・7(1994・1995)年度の値を除外すると、「のぞみ」山陽区間延伸以降の輸送密度は、ほぼ一貫して減少を続けている。このことと1)より、2)のように分析できる。

2)東海道・山陽新幹線を直通する長距離利用者(※)には、「のぞみ」は受け容れられていない。
   ※:東京−岡山・広島間、名古屋−博多間などの利用者が主と想定される。

 分析1)より、東海道新幹線の輸送密度から山陽新幹線の輸送密度を減じた値が、東海道区間内相互の利用者の動きを表すものと考えられる(なおこれは仮定であり数学的統計的根拠はないので注意されたい)。ここで、以下に東海道新幹線の輸送密度から山陽新幹線の輸送密度を減じた値の推移を示す。

 これを見ると、東海道区間内相互の輸送密度は、伸び渋る年度もいくつかあるものの、全体としては増進基調にあることが見てとれる。その一方で、参考文献(09)に掲載されたグラフを見ると、東京−大阪間の東海道新幹線利用者数は実数・率とも明確な減少傾向にあり、平成11(1999)年度を底にようやく下げ止まったことがわかる。
 これらのことから、3)4)のように分析できる。

3)東海道区間内相互の中距離利用者(*)は、「のぞみ」を受け容れ、需要が増大している。
  *:東京−名古屋・京都間、名古屋−新大阪間の利用者が主と想定される。

4)東京−新大阪間の利用者は、「のぞみ」を受け容れていない。
  ただし近年の下げ止まりは、従来のヘビーユーザー以外の新規利用者を開拓した可能性がある。


 なお、参考のために航空各路線の輸送密度(即ち利用者数)の推移についてもコメントしておこう。

 各路線とも需要が伸びているが、特に東京−大阪(伊丹・関西)便の急成長は目立つ。この要因としては、大阪側に2つの空港があり広い地域からアクセスしやすくなったこと、シャトル便が設定されたこと、一部の便では値下げが図られたこと、などが効いているのだろう。これほどの需要の急伸は、東海道新幹線利用者の減少分を奪っただけではありえない。様々な施策により効用を増大させ、新規需要を開拓したという意味において、特筆に値する現象である。
 東京−広島便の伸びも目立つ。広島空港が山中に移転し、かつ山陽新幹線には「のぞみ」が年毎に増発され、競合条件は悪化しているはずなのに、利用者はかえって伸びている。これは「のぞみ」が利用者にどう受容されているかを端的に示す事象であろう。
 東京−岡山便及び名古屋−福岡便の動向とあわせて考えると、その傾向はさらに明瞭である(#)。これら路線の利用者の伸びの合計は、山陽新幹線の輸送密度減よりも小さい。このことから、5)のように分析できる。
   #:東京−福岡便は、新幹線利用者数が少ないうえ、航空側の施策により需要が急伸したと考えられるので、除外した。

5)山陽新幹線の需要の落ちこみは、航空との競合激化というよりも、「のぞみ」の独り相撲と解するべきである。

■山陽「のぞみ」不振の原因

 山陽「のぞみ」は、施策としては明らかに失敗といえる。では、山陽「のぞみ」はなぜ受け容れられていないのか。厳密正確に分析するためには有意な統計(アンケート調査)が必要なところだが、以上までのデータから推測を試みてみよう。その第一は付加料金の設定である。付加料金不要の「ひかりレールスター」登場により輸送密度が上昇に転じたことが、その尤なる証である。利用者は、短縮時間と比べて「のぞみ料金」は高いと認識しているに違いない。
 しかし、それだけでは東海道区間での中距離利用者の伸びを説明できない。ここで考慮すべきは「座席の確保」であろう。例えば東京−名古屋間の利用者数が伸びることにより、東京−広島間の利用者が座席を確保しにくくなり、その状況に嫌気して旅行需要じたいが縮減しているのではないか(注)。
 もしこの推測が的中しているならば、本末転倒なねじれといえる。本来は長距離区間での競争力増強を企図した「のぞみ」であるはずなのに、中距離区間で需要を喚起する一方、長距離区間で競争力を失っているのでは、あべこべといわざるをえない。

【注に対する補足】
 新幹線の実乗時間2時間を超える区間では、同じ座席に固着されるという状況に飽きるため、航空に対して競争力がないという見方があるが、筆者はこれを棄却する。なぜなら、これを主たる理由として利用者が新幹線から航空にシフトするならば、もともとのパイが維持されるはずだからである。

 結論(2003/04/28 00:07:18)

■「のぞみ」シフト総評


 以上までの分析を通じてみると、「のぞみ」は「新幹線ビジネスきっぷ」を入手困難な、主に中距離区間の一般利用者に支えられていると推測できる。実際のところ、一般利用者に対する「のぞみ」「ひかり」価格差は妥当な水準であるばかりでなく、「のぞみ」の方が「ひかり」よりもむしろ効用が高い。ひょっとすると、JR東海はそれまで新幹線に目を向けていなかった層の需要の開拓をも狙っていたのかもしれない。
 その一方、ヘビーユーザー(特に東京−新大阪間)に対する「のぞみ」「ひかり」価格差は過大である。これほど差額があると、JR東海にはヘビーユーザーの「のぞみ」集中を避ける意図があったとしか思えない。旧ダイヤは「のぞみ」毎時2本運行と銘されてはいるものの、実質的には毎時1本運行(繁忙時間帯のみ増発)であるから、「のぞみ」への利用者集中はあまり好ましくないことは確かである。
 従って、需要を平準化し、一般利用者とJR東海の二者に利益をもたらすという意味において、「のぞみ」「ひかり」の価格差設定は妥当であったといえる。
 しかし、この運賃料金設定を現ダイヤにも適用することについては、疑問を呈さざるをえない。「のぞみ」が毎時3本運行(実質的には2本)となり、「ひかり」は運行本数が減ったばかりか、全体的に所要時間が延びており、利用価値が下がっている。そんな状況で「のぞみ」「ひかり」価格差がそのままというのは、如何なものか。
 しかも、現ダイヤの速達型「ひかり」は「のぞみ」との所要時間差が短くなっている。新横浜停車「のぞみ」と比べれば東京−新大阪間で17分差しかない。してみると、価格差がそのままとは、整合性にいよいよ欠ける。
 現ダイヤに移行した時点で、「のぞみ回数券」「のぞみ変更券」の値下げを断行、一般利用者の価格差なみとするべきだったのではないか。いずれ大増発する方向性が示されているのだから、「のぞみ」を最高利用価値の列車として位置づけ、常に満席になるような価格設定をし、「のぞみ」待望論を呼ぶような環境構築をしておく工夫をしてもよかったように思う。

 そして、品川駅開業に伴うダイヤ改正時には「のぞみ料金」そのものを廃止するべきであろう。その時にはおそらく区間各駅停車型「のぞみ」も出てくるはずで、かような列車に「ひかり」を冠するとそれはそれで速達区間での整合がとれないからである。

 京都に到着する700系列車「のぞみ」(平成13(2001)年撮影)

 新幹線の汎用系。最高速度285km/hと500系より後退しているが(しかもこの最高速度は東海道新幹線区間では発揮されない)、より経済的で、車内空間も快適である。前面形状は独特で、カモノハシというか靴べらというか。新幹線に愛嬌を感じる車両が登場するとは、正直なところ意外であった。

 

■「のぞみ」は誰のものか?

 「のぞみ」シフトにより、東海道新幹線の利用者の質は大きく変化したと考えられる。東京−新大阪間のヘビーユーザー(主に出張利用者)及び東海道区間−山陽区間直通利用者は減り、東京−名古屋間に代表される中距離区間利用者が伸びている。
 東京−新大阪間ヘビーユーザーにとって、「のぞみ」シフトは不満の多い施策であろう。「のぞみ」を使うには運賃料金の差額が高すぎるし、かといって「ひかり」を使おうにも運行本数が少なくなっている。その不満は、東京−新大阪間の利用者数減少という結果として、顕著に現れている。
 以下は憶測であることを承知されたい。東京−新大阪間ヘビーユーザーの不満を、JR東海はおそらく意に介していない。むしろ、平成11(1999)年度を底として、東海道区間内相互の利用者数が伸びていることに自信を持っている。割引率の高いヘビーユーザーが逃げても、利益率の高い一般利用者が増えているから、かえって好ましい傾向とみなしている可能性さえ指摘できる。
 これはJR東海の企業戦略であるから、利用者としては不満を持っても、受容するしかない面がある。しかし、新幹線が本来最も力を傾注すべき、航空と競合する長距離区間の利用者減少傾向を放擲したままというのは問題である。山陽新幹線への直通利用者を増す施策が東海道新幹線の利用者増加に直結することは、過去のデータから明々白々である。その太宗を措いて、競合交通機関の少ない中距離区間の需要掘り起こしで満足するようでは、小成に安んじて発展をとどめ、将来のさらなる大を捨てるようなものである。
 長距離区間、東京−新大阪間ヘビーユーザー、中距離区間。これら利用者層は、あちらを立てればこちらが立たない類の需要とは決していえない。かような需要を総取りしようとせず、選択的に特定利用者層を伸ばそうという姿勢は、欲がなさすぎる。

 さらにいえば、JR西日本の企業戦略に沿わない方向性で利用者層を選択するのは問題である。長距離区間での競争力強化及び需要拡大は、JR西日本の切望とも呼べる課題である。しかもその成果がJR東海にまっすぐ反映される以上、利害は共通しているはずである。しかしながら、現状では両社の足並みが揃っているとは認めがたい。
 東海道新幹線と山陽新幹線を同じ会社が経営していれば、高い可能性のある施策として、こんなことが行われたのではないか。例えば、東北新幹線のように行先別愛称を設定し、利用者の分散を図るとか。例えば、博多「のぞみ」の東海道区間内相互での指定券発券をしないとか。これら施策はJR東海営業戦略の自由度を狭めるようにも見えるが、長距離区間の利用者数が伸び、その結果として東海道区間での輸送密度が高まれば、JR東海にも大きなメリットがあるはずだ。
 その観点からすれば、品川開業時からの利用者動向には真剣に注目しなければならない。東京発博多・広島行列車が全て「のぞみ」となり、「のぞみ」料金が約3分の1に値下げされることが、利用者にどのように受け止められるのか。所要時間は短縮され、利用可能な列車が増え、それに連動して供給される座席も増え、しかも付加料金は値下げされる。その帰趨は、「のぞみ」シフトの正否を端的に示すことになるであろう。

■「のぞみ」シフトの意義


  「のぞみ」は鉄道史の画期を刻んだ。20年以上もの長期間に渡って、わずかな進歩しか果たせなかった新幹線という交通システムに、最高速度向上・所要時間短縮の余地があることを示した。「のぞみ」の登場によって、東海道・山陽新幹線はもとよりのこと、整備新幹線までが大きな追い風を受けた。整備新幹線建設による所要時間短縮は、それまでに考えられていたよりも大幅な水準になり、その社会的意義がより大きくなると認識されたからである。「のぞみ」車両の開発は、新幹線インフラの価値をも高めたといえる。
 「のぞみ」は利用者には時間短縮メリットを提供した。特に一般利用者の受益が顕著であった。その反面、ヘビーユーザー(特に東京−新大阪間)に対する「のぞみ」「ひかり」価格差の設定は過大であり、その利用は抑制される傾向にあったといえる。
 これは「のぞみ」運行本数が少ない時代においては、需要平準化に寄与するという意味において妥当な措置であった。また、「のぞみ」=最高クラス列車とのブランドイメージ確立に、この価格差が影響を与えたかもしれない。そしてなによりも、「のぞみ」料金の設定はJRが得る利益を押し上げた。利用者側も事業者側も受益したのだから、「のぞみ」シフトの方向性は適切だったと高く評価するべきであろう。
 しかしながら、「のぞみ」3本運行ダイヤになった今日では、運賃料金設定の見直しが必要であろう。現時点では一般利用者とヘビーユーザーの「のぞみ」「ひかり」価格差を同水準に揃えるべきだろうし、品川駅開業時には「のぞみ」料金そのものを廃止するべきであろう。
 ヘビーユーザーへの「のぞみ」「ひかり」価格差を維持した場合、東海道新幹線の需要は確実に減退する。需要減退を避けるためには、たとえ一時的減収になろうとも「のぞみ」料金廃止は必須といえる。「ひかりレールスター」の成功を見れば、それは論じるまでもなく明らかであろう。
 「のぞみ」を生かすも殺すも運賃料金設定次第、そんな重大な岐路にさしかかっている。
 

新大阪に到着した700系列車「ひかりレールスター」
 (平成15(2003)年撮影)

 「のぞみ」なみの速達サービスを、付加料金なしで実現させた意義は大きい。しかも、普通車指定席は4列掛けと、グリーン車なみの快適な居住性を提供している。JR西日本営業戦略の方向性がよく表れている列車ではあるが、しかし、JR東海との整合性がよく図られているかとなると、かなり心許ない。

 さらに小技を効かせるならば、停車駅パターン(つまり表定速度段階)に対応した列車名称設定をやめ、行先別の列車名称を設定するのも一策である。例えば、博多・広島行を「のぞみ」、岡山行を「みらい」、新大阪行を「ひかり」、名古屋行を「こだま」にする。これに「のぞみ」「みらい」の東海道区間内相互での指定券発券制限とあわせれば、利用者の流れを分離誘導することが可能になるのではないか。少なくとも、博多「のぞみ」に名古屋までの利用者が集中するような事態は避けられるはずだ。
 以上の施策を総合して行えば、長距離区間においても、新幹線即ち「のぞみ」利用者は増加に転じ、縮減した全体の需要をも回復させると、筆者は確信している。

参考文献

「数字で見る鉄道(各年度版)」(運輸省鉄道局)(01)
「Central Japan Railway Company」(JR東海)(02)
JR東海HP 「営業成績」 http://www.jr-central.co.jp/info.nsf/doc/kigyo_eigyoseiseki_top(03)
JR西日本HP 「企業・IR情報/データで見るJR西日本2002」 http://www.westjr.co.jp/company/data2002/(04)
「東海道新幹線30年」(須田寛)(05)
「東海道新幹線/写真・時刻表で見る新幹線の昨日・今日・明日」(須田寛)(06)
「航空輸送統計年報(各年度版)」(運輸省→国土交通省)(07)
交通新聞平成15(2003)年 3月24日付記事(08)
 asahi.com 「教育・入試/みんなのニュースランド」 http://www.asahi.com/edu/newsland/0313a.html(09)

感想戦編(2003/04/28 16:51:44)

■なぜこの立論を展開したか

 筆者は、実をいうと「のぞみ」愛好家である。東海道・山陽新幹線に乗る機会があれば、第一選択肢として「のぞみ」を選び、空席がない時に限って「ひかり」を選ぶという行動を採る。「のぞみ」による時間短縮効果は付加料金に見合っていると認識しているからであるし、また目的地への到着時刻から逆算すれば必然的に「のぞみ」を選ばざるをえないという状況もある。
 乗車機会は、しかし決して多くはない。近年では年数回程度。最も多く利用した年でも10回は乗っていない。要はスポットユーザーにすぎない。
 その一方、筆者の「のぞみ」乗車時には常に大混雑が呈されていたことも事実である。その日のうちに目的地に着くため、「のぞみ」グリーン車を押さえざるをえなかったことさえある。当日の東京駅の新幹線ホームは、山手線ホームなみに混雑していたものだ。
 そういう自分の感覚と経験があるため、【検証】掲示板において、ヘビーユーザーから「のぞみ」に対する強い不満が呈されたことには違和感があった。
 本論を展開した理由の第一は、「のぞみ」シフトの妥当性を、ヘビーユーザーの不満を含め、理論とデータを駆使して検証してみたかった、という点につきる。
 本論を興そうとしたもう一つの理由は、エル・アルコン様の立論に対するものたりなさを感じたからである。【検証】きっての論者であるエル・アルコン様は、定性論において特に素晴らしい立論を呈されておられる。しかしながら、理論面を補強していないために、実はヘビーユーザーの不満を高度化して記述しているだけではないか、との疑念を筆者は持った。ユーザーとして不満と、特定ユーザーに不満を与える営業戦略が妥当ではないという立論は、決して一対一で直結されるものではない。
 ヘビーユーザーに対してはスポットユーザーとしてややシニカルな視点で、「のぞみ」愛好家としては「『のぞみ』が受容されていないなどありえるものか」という感情を持ち、そして一分析者としては公正中立を旨として、「のぞみ」シフトを検証した成果が本論である。

■強い衝撃

 本論における利用者便益分析は、エル・アルコン様の立論をトレースしたものである。要するに、同じ論旨を異なるアプローチで表現したにすぎない。
 問題は、データ分析である。この結果は、正直なところ衝撃だった。「のぞみ」は利用者に受容されていない。しかも長距離区間において。山陽「のぞみ」は現時点では明確に「失敗」と断じなければならない惨状を呈している。
 「信じられない」という感情がまず先に立った。「のぞみ」は長距離区間でこそ特長を発揮すべき列車であるというのに。しかし、事実は事実である。黒を白と粉飾することはできない。なぜ「のぞみ」が受け容れられていないのか、その理由を考察することはやや難しかったが、全体としては整合のとれた分析にまとめたつもりである。
 それにしても、山陽「のぞみ」の失敗は、エル・アルコン様も指摘しえなかった一種の「新事実」とはいえまいか。これを掘り起こしただけでも本論を興した意義はあったのではないかと、ひそかに自負している。

 

■本論を通じて得られたこと

 この【検証】は「利用者の視点で捉える議論スポット」と銘されている議論の場である。そして、エル・アルコン様は定性論を呈する実証派論者の代表格といえよう。
 その一方で、筆者は理論とデータをもってアプローチするタイプである。従って、時に実態を知らないまま立論する弊を免れえない。本論においては、まったく恥ずかしながら、「新幹線ビジネスきっぷ」の存在を知らなかったほどだ。
 定性論者と定量論者。迂闊に対峙すると平行線になりかねないが、このたびの議論では双方に得るところが多かったのではないかと思っている。実際のところ、筆者には新しい発見がいくつかあったし、エル・アルコン様にも同様の発見があれば幸いである。
 実体験と理論・データをあわせることにより、議論がより深度化できたのではないか。その意味において、【検証】なる議論の場は貴重である。そして、実体験と理論・データのどちらにも偏することなく論じることが、よりよい議論につながるともいえる。筆者にしても、ヘビーユーザーの実際の利用経験談を踏まえてこそ、はじめて確信を持って分析できた事柄が何点かある。その逆もまた真であってほしいものだ。

 ところで、データを活用する際には、当局者のコメントを引用するばかりでなく、独自の分析を加えることもまた重要である。その観点からすれば、ライターの実乗記及び当局者へのインタビューを主体に、即ち客観的分析に重点を置かないままで「のぞみ」礼讃を展開する鉄道ジャーナルの姿勢は、危ういと評さなければならない。実態は本論の如しであるというのに、「のぞみ」に対してほとんど無批判というのは如何なものか。
 「のぞみ」愛好家の筆者でさえ、事実を知れば、考えや姿勢を改める。鉄道ジャーナルにその兆候が見えないことは、事実を把握する能力の乏しさを示唆するものであり、世論をミスリードするという意味では大問題でさえある。鉄道ジャーナルの誌面から得られるものはもはやなくなりつつある、とは筆者の確信であるが、諸賢はどう思われるだろうか。議論を通じて相互に検証・啓発し、より高度で深度化された成果が得られる場がある今日では、存在意義を大きく減じていると、筆者には思われてならないのである。
 勿論、筆者が「青」であるなどと自惚れるつもりは毛頭なく、それはエル・アルコン様においても同様であろう。しかしながら、われわれ(と敢えて記させて頂く)がテキストとして学んできた書物において、「藍の褪色」が急速に進みつつある現状は、憂え悲しむべきで事態ではある。そのテキストが昔日の「ひかり」を回復する「のぞみ」はおそらくない。「良禽は木を選ぶ」といわれるように、交通論を論じる意志のある論者は、枯木を捨て新しい木を選ばなければならないだろう。
 やや発散気味にはなったが、以上をもって本論のまとめとしたい。


私からの感想
 投稿者---エル・アルコン氏(2003/05/11 15:19:49) http://6408.teacup.com/narashinohara/bbs

 遅くなりましたが、私の方からの感想です。

●データにより明らかになった「相反する現象」
 和寒さんがデータで示された部分により、ようやくこれまで感じていた、一見矛盾している事象が論理的に説明がついたようです。
 つまり、「どうも最近乗り通すお客が減っているようだ」という部分と、「指定席がなかなか取れない」という部分です。新幹線全般として目だって落ち込んでいる訳でもない中でのこうした「体感」が、中距離分野での「のぞみ」シフトを典型にして利用が伸びている、という説明と、東京−大阪間や山陽直通客に「のぞみ」シフトが見られないばかりか減少傾向にあるという説明(大意)となって現れると、整合性を持って説明できるようです。

 中距離での「のぞみ」シフトですが、確かに名古屋ユーザーからは「のぞみ」を結構気軽に利用している話を聞きます。これは東名間の「のぞみ変更券」が1350円で、個札の追加料金760円と比べても割高感が低いこと。またビジネスきっぷの割引率が8%程度ともともと低いこともあり、時短効果は最も小さいケースで僅か9分(「のぞみ」1時間40分、「ひかり」1時間49分)ですが、指定が取り易いという面もあり、総合的に「のぞみ」に費用対効果が認められているという結論になります。

●ダイヤ設定のアヤ
 新神戸を使う立場として、「のぞみ」増発前から、毎時3本のうち1本は新横浜停車で「のぞみ」待避なし、1本は静岡県内停車、1本は新横浜、米原停車ということで、山陽直通という要因以外で混雑が決まっていたように感じていました。
そこに中距離客の増加という要因が重なったと仮定すれば、東海道区間の要因に山陽直通利用者が引きずられることで、ますます山陽直通指向が下がるという傾向が推測できます。
 上記の名古屋ユーザーの「指定が取り易い」という推測も、裏を返せば選択肢が多い名古屋も、少ない山陽も同じ条件ということの裏返しです。

●商品の問題
 今回触れられていませんでしたが、「ビジネスきっぷ」の問題とともに、各種商品の「のぞみ」規制が山陽直通においては大きいでしょう。
 つまり、航空機という圧倒的に速い存在に対しては、やはり価格面で訴求するわけで、それがビジネス客であればビジネスきっぷですが、追加料金の割高感の問題もあり、最近では早朝「のぞみ」利用のダンピングが深度化してます(岡山支社の商品ですが、遂に岡山発8時7分の「のぞみ6号」まで対象となり(午前中着の全便)、午前到着の利便性を押し出す航空機に対抗している)。

 また、時間を重視するビジネス客でない旅行客の場合を見ると、需要喚起のはずの各種往復割引の商品、そして主力とも言えるフルムーンにジパング倶楽部も「のぞみ」規制が掛かっています。実際問題として、東海道区間直通は「のぞみ」が使えないとなると何の取り柄もないわけで、ビジネスきっぷのような追加料金すら受け入れないというのは論外極まります。

●経済循環論
 出張旅費の軽減分だけ企業業績が上がることで景気循環に寄与し、もって移動需要が増大するという部分ですが、各企業にとって出張旅費の占める割合というのは「経費」の一部に過ぎず、例えば日産のリバイバルプランのような激烈なコスト削減の対象はあくまで原価の部分がメインということを考えると、昼休みの消灯やコピーの裏紙使用といったコスト削減の中のその他大勢であり、企業業績に直結するものでもないでしょう。
 実際、経費を管理する側にとっては実は些末な話であり、他の手段は「出張を手控える」も含めていろいろあるのです。

 ところが鉄道会社にとっては、事業会社の「その他大勢」として認識している支出が主業の収入であり総てです。俗に「新幹線がくしゃみをしたら、JR東海は肺炎」という例えがありましたが、それこそ事業会社がほんの些細な動きをする程度で新幹線がくしゃみをして...という世界なのです。
 ですから、事業会社が特に変えたという認識を持たない程度の変化でも大きく作用するということを理解して、「大きく変えざるを得ない」とまでなったら致命傷にもなりかねないという認識こそが大切でしょう。

 やはり気になるのは東阪間の利用曲線が景気循環と乖離を始めていることで、もともと効きしろが小さいところにこれでは、JR東海も「一人相撲」になりかねません。

●山陽の惨状について
 ノーケアだっただけに衝撃です。
 これについては、「のぞみ」と「レールスター」の効果の差違。そして「付加価値」と「追加料金」についての「展論」の形で別途まとめたいと思います。

●結論にかえて
 この議論のそもそものスタートはNo.1135でのうりさんによる鉄道ジャーナルの記事への疑念です。今回の議論を通じて、利用者が定性的に感じている部分と、データで探ることによって判明する部分により、「のぞみ」の実態、新幹線の利用実態の変化がそれなりに明らかに出来たわけですが、本来「専門情報誌」という「プロ」であれば、当然それくらいの分析は読者の前に披露できているはずです。
 ところが今回の議論、つまり「のぞみ」はどうあるべきか、どう売るべきかという議論の前提となっている現状認識の時点で、すでにジャーナル誌の見立ては明らかにずれており、これでは分析など夢のまた夢ですし、読者への説得力など望めません。

 和寒さんは「客観的分析」を欠いているという批判を寄せられていますが、私から見ると、「乗って見ていれば分かるはずの話」すら見えていない訳です。
 これでは資料としての利用に耐えるどころか、読者の知的好奇心すら満足させることは不可能です。特に本件は読者層が実際に見聞きする機会の多い路線が対象なだけに、読者に「おいおい」と思われるような記事を繰り返すことが何を意味するのか、その「情報」への評価に直結することが危険水域に達しつつあると思います。

ひかりからのぞみへ「?」(RJ記事への異論) ../log092.html#2
東海道新幹線、ここが不満
 
../log101.html#5

 以上、我の強い感想ですが(苦笑)、つらつらと述べてみました。

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2004.11.14 Update


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