【検証:】過去ログSpecial |
|
【検証:近未来交通地図】Special008 費用対効果分析によるプロジェクト類型化を試みる (利用者便益分析の解説を試みる:第2部) |
||
本投稿は、【検証:】掲示板でもお馴染みの、和寒様より
当BBSに御投稿頂きました文章およびその返信を、読みやすく構成させて頂いたものです(なお一部文面を編集しております)。 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/benefit/00.html なお、【検証:】では掲示板投稿に限らず広く皆様からの御意見・レポート等を御紹介致します。自分ではホームページを持っていないけれど、意見が結構纏まっている…という貴方、各種ご相談に応じますのでお気軽に管理人までどうぞ!
|
||
下記内容は予告なしに変更することがありますので、予め御了承下さい。 |
|
|
|
■第2部まえがき 先の本文を第1部とすれば、ここから先は第2部となる。
第1部では「利用者便益」の本質をわかりやすく示すことに重点を置いたため、「費用対効果分析」に踏みこんでおらず、敢えてコスト要因を無視している。そこで、第2部では第1部の試算を基礎にして「費用対効果分析」のケーススタディを行い、プロジェクトの類型毎に、どのように公民分担されるべきかを論じたい。
■費用対効果分析の定義
費用対効果(便益)分析とは、コストあたりどれだけの効果があるかの除算であるから、概念としては簡単である。ところが、コスト要因が案外悩ましく、どこに当てはめるかで結果まで変わってきてしまう。
以下、変数として、
|
とすると、実に下記4つの定義式が考えられる。
|
ここで、C・Δc・Δiが実際の貨幣、Bが貨幣換算した効用増分である点を鑑みれば、2) 3)式は好ましくないことが理解できる。そもそも3)式の場合、Bと(Δi−Δc)は、同じ効用の一部をダブルカウントしている疑いをも考慮しなければならない。
1)式は上記問題を全てクリアするが、費用拠出セクターが同一とは限らない。その場合、分母の加算そのものに意味がなくなってしまう。
プロジェクト費用を拠出するセクターが費用対効果を分析するには、4)式が最も単純で使いやすい定義式であろう。ただし、運営セクターが破綻しないために、Δc<Δiなる制約条件を付ける必要はある。■プロジェクトの設定(その1)
XY間の所要時間短縮を図るプロジェクトを実行することとする。
プロジェクト実行に要する総費用は 1,000億円とする。この費用は国(県や市など自治体でもよい)が負担するものとする。
プロジェクト評価期間は30年とし、その間の金利をゼロとする(社会的割引を考慮対象外とするための単純化)。
所要時間短縮幅は20分とする。
運営会社(鉄道会社)は、プロジェクト実行前は収支均衡と仮定する。▼A分類:
プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金を課金しない。
鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。
このケースでは、1日あたり 2,200万円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 800万円の増収、 300万円の増益となる(承前 ケース4)。これを30年間に換算すると、
利用者便益 :2,200万円×365日×30年 = 2,409億円 鉄道会社増益 : 300万円×365日×30年 = 329億円 B/C 4)
:2,409÷1,000 = 2.4 3)
:2,409÷(1,000−329) = 3.6 1)
:(2,409+329)÷1,000 = 2.7 となり、良好なプロジェクトといえる。鉄道会社にも 329億円の累積黒字が発生、健全経営が可能である。
▼B分類:
プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金 1,000円を課金する。
鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。
このケースでは、1日あたり 0円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 2,000万円の増収、 1,500万円の増益となる(承前 ケース1)。これを30年間に換算すると、
利用者便益 : 0万円×365日×30年 = 0億円 鉄道会社増益 :1,500万円×365日×30年 = 1,643億円 B/C 4)
: 0÷1,000 = 0.0 3)
: 0÷(1,000−1,643) = 0.0 1)
:(0+1,643)÷1,000 = 1.6 となり、プロジェクトを実行する社会的意義は薄いといわざるをえない。ただし、鉄道会社には 1,643億円の累積黒字が発生する。健全経営ではあるが、国が拠出する投資以上の受益となるので、問題が多いスキームである。
▼C分類:
プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金を課金しない。
鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 1,000万円増加すると仮定する。
このケースでは、1日あたり 2,200万円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 800万円の増収、 ▲200万円の減益となる(承前 ケース3)。これを30年間に換算すると、
利用者便益 : 2,200万円×365日×30年 = 2,409億円 鉄道会社増益 :▲200万円×365日×30年 =▲219億円 B/C 4) :2,409÷1,000 = 2.4 3) :2,409÷(1,000+219) = 1.8 1) :(2,409−219)÷1,000 = 2.2 となり、それなりに社会的意義を有するプロジェクトといえる。ところが、鉄道会社には ▲219億円の累積赤字が発生してしまう。そもそも営業赤字になる設定なので、健全経営など不可能ということになる。
■プロジェクトの設定(その2)
XY間の所要時間短縮を図るプロジェクトを実行することとする。
プロジェクト実行に要する総費用は 1,000億円とする。この費用は鉄道会社が全額借入にて負担するものとする。
プロジェクト評価期間は30年とし、その間の金利をゼロとする(社会的割引を考慮対象外とするための単純化)。
所要時間短縮幅は20分とする。
運営会社(鉄道会社)は、プロジェクト実行前は収支均衡と仮定する。▼D分類:
プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金を課金しない。
鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。
このケースでは、1日あたり 2,200万円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 800万円の増収、 300万円の増益となる(承前 ケース4)。これを30年間に換算すると、
利用者便益 :2,200万円×365日×30年 = 2,409億円 鉄道会社増益 : 300万円×365日×30年 = 329億円 償還コスト : = 1,000億円 B/C 4)
:2,409÷1,000 = 2.4 3)
:2,409÷(1,000−329) = 3.6 1)
:(2,409+329)÷1,000 = 2.7 となり、プロジェクト評価じたいは良好な値となる。しかし、鉄道会社には ▲671億円の累積赤字(増益−償還コスト)が発生する。営業黒字は出ているので、初期投資の償還後は健全経営に転じることも不可能ではないが、状況次第では破綻に至る可能性がある。
▼E分類:
プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金 1,000円を課金する。
鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。
このケースでは、1日あたり 0円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 2,000万円の増収、 1,500万円の増益となる(承前 ケース1)。これを30年間に換算すると、
利用者便益 : 0万円×365日×30年 = 0億円 鉄道会社増益 :1,500万円×365日×30年 = 1,643億円 償還コスト : = 1,000億円 B/C 4)
: 0÷1,000 = 0.0 3)
: 0÷(1,000−1,643) = 0.0 1)
:(0+1,643)÷1,000 = 1.6 となり、プロジェクトを実行する社会的意義は薄いといわざるをえない。ただし、鉄道会社には 643億円の累積黒字が発生し、健全経営が可能である。投資効率も決して悪くはない(定義式1)の結果による)。しかも、31年目以降は償還コスト負担がなくなるため、設備更新までの期間は大幅な利益を確保できるというメリットが生じる。
■総括
費用対効果分析とは、詰まるところ「誰を主体にして」「どの便益を採りあげるか」によって、数字の評価が大きく異なってくる。
運営会社にとっては、プロジェクトの社会的意義の高低にかかわらず、健全経営が実現できればそれで充分であろう。
国にとっては、社会的意義の高いプロジェクトを優先的に推進する義務がある。ただし、いくら意義が高くとも、その運営会社が破綻するような(あるいはその逆に法外な利益を享受してしまうような)スキームを構築することは避けるべきである。
プロジェクトの社会的意義 (B/Cの高さ) |
鉄道会社の健全経営 | |
A分類 | ◎ | ○ |
B分類 | − | ◎ |
C分類 | ○ | ×× |
D分類 | ◎ | × |
E分類 | − | ○ |
以上の観点からして、現実にありえないのはB分類である。国がプロジェクトコストを負担して、かつ運営会社が大きく受益するというのは、国による運営会社への直接補助に近く、決して許されない。
運営会社の受益を設備使用料等のオプションにて国に移転させるスキームを構築すれば、上記の問題は解消されるものの、E分類と同様の問題が発生してしまう(後述)。次いで考えにくいのが、C分類である。営業すればするほど赤字になるとは、最終的に破綻せざるをえないからである。対象プロジェクトが極めて重要で、営業赤字も国が補填するとの社会的合意が得られれば話は別だが、通常は成立しにくい。
E分類のプロジェクトは、民間が積極的に参入すべきである。単独でも健全経営が可能であるならば、国が関与する必然性は薄い。ただし、巨額の資金調達が難しいとか、法的な参入規制があるような場合、国は側面的な支援を講じるべきであろう。
ただし、E分類のプロジェクトには利用者便益が発生していない、という点に留意する必要がある。プロジェクト実行により発生した時間短縮を、特別料金課金で相殺しているので、利用者便益(消費者余剰)が発生しないのである。
である以上、なおのこと、国はこのプロジェクトには関与するべきではない。むしろ、利用者が搾取されないよう、法的規制などにより運営会社を監視・規制する必要を認めてもいいほどである。D分類は、民間参入の失敗事例である。社会的意義が高くとも、運営会社が破綻してはプロジェクトを維持できない。このような事態にならないよう、スキームを構築する必要がある。
国が関与するプロジェクトの理想型は、A分類である。社会的意義も高いし、運営会社は健全経営となる。受益の範囲内で設備使用料をとるスキームを組めば、現金ベースでのリターンを得ることもできる。
■最後に 世の中には様々な形態のプロジェクトが存在する。社会的意義の高低、運営会社が健全経営可能か否か、この観点だけに絞っても多くのバリエーションが存在する。
市場開放・規制緩和という大きな流れからすれば、運営会社が自力償還可能である事業(上に定義したE分類プロジェクト)は、民間活力に委ねるべきであろう。かような事業への国の積極的関与(例えば運営会社を国直営とするなど)は、現代の社会においては、国による搾取との指弾を受けても仕方ないほどの不義であろう。
しかしながら、全てのプロジェクトがE分類になりえるかといえば、必ずしもそうではない。社会的意義が高くとも、運営会社が自力償還できない事業も、一方には存在する。
国が関与すべきは、社会的意義が高く、運営会社が自力償還不能でも、スキーム次第では健全経営できるようなプロジェクトであり、これらを補助金などのオプションをもって後押しすることである。具体的にいえば、国に求められる役割は、上に定義したD分類をA分類に押し上げるための手助けである。費用対効果分析そのものは、社会のあらゆる場面において、個人レベルから企業レベルまで様々な判断基準をもって、半ば無意識のうちに実行されている。
そして繰り返しながら、利用者便益とは、社会全体に発生する貨幣換算した効用の増分である。必ずしも現金ではないことに留意すべきである。
ここで、国が、利用者便益を分子とする費用対効果分析を行うという行為そのものが、費用(投資)に対するリターンは必ずしも現金ではなくてもよいと割り切っていることを示唆している。明確に意識されているかどうかはともかく、そういうことなのである。例えば、我々が千円を使うとして、その対象が買物であれ食事であれサービスであれ、千円相当のものを求める、ということになるだろう。千円の投資には千円以上のリターンがなければならない、というのは投機家の発想である。
国が費用対効果分析を行いプロジェクトを採択するという流れは、「投資に見合うだけの効果」があるかどうかの判断を行っているにほかならない。「投資に見合うだけの現金ベースでのリターン」までは求めていないのである。
勿論、国といえども、収入と支出が均衡しなければ破綻してしまう。
それでも、利用者便益分析を分子とする費用対効果分析を行いプロジェクトを採択する以上、方向性は正しい方角を向いている。
なぜならば、第1部にも記したとおり、「社会全体の効用が増加」すれば「財産価値も向上し国富が増加する」という流れが「利用者便益分析」の本義であって、最終的に帰結された便益の一部もしくは全部をいずれ「税」にて回収できる可能性があるからである。■了■
追:本論は後日拙HP「以久科鉄道志学館」にも掲載します。
その際は、「台形公式」をより理解しやすくするため、グラフを1葉追加します。
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5256/benefit/00.html
2004.11.14 Update | |||||
|
|
|
|||
Copyright ©
1998-2004 Unlimited Liability Company 551planning. All rights reserved. |